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第1759号 ほろほろ通信『取られた千円札』志賀内泰弘

稲垣市の加賀りつ子さん(82)が、名古屋市中川区の地下鉄高畑駅で切符を買おうとした時の話。千円札を手に自動券売機の前まで行くと、そこは定期券専用だった。隣の券売機に移ろうと思った瞬間のこと。左手に持っていた千円札を近くにいた十七、十八歳の男性に取られてしまった。

一瞬、「盗まれた」と思った。しかし、その青年は販売機にお札を入れてこう言った。「どこどこ?」とっさのことで何のことかわからなかったが、すぐに「行先を聞いているんだな」と気づき、自分で名古屋駅までの料金ボタンを押した。

ところが今度は、青年は小銭をわしづかみにした。加賀さんは再び「あっ」と思いとっさに手を差し出した。青年は釣銭をもったまま、手を引っ込めたが、どうも様子が違う。しきりに加賀さんの手提げかばんを指さす。

この時、加賀さんは初めて、青年に軽い知的障害があるらしいことに気づいた。彼は、釣銭を落とすといけないから、かばんにしまえと言っているらしい。かばんから財布を取り出して開くと、自分の手でジャラジャラッと小銭を入れてくれた。

さらに改札までのほんの十歩ほどの距離を、手を取って連れて行ってくれた。てっきり一緒に地下鉄に乗るのかと思ったら、「バイバイ」と手を振るしぐさ。階段を下りるところまで見送ってくれた彼に、深くお辞儀をして別れた。

「一瞬でも疑ってしまったことが恥ずかしい。」と加賀さん。「きっと両親か先生からお年寄りを助けてあげなさいと教えてもらい、いつもやっているのでしょう。またお会いしたいです」

<中日新聞掲載 2008年12月21日>