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第1853号 ほっこり親孝行ものがたり『第2回 わざと心配をかけてみる』志賀内泰弘

私は、自分で言うのもおこがましいが、几帳面で完璧主義。努力家でどんなことでも諦めずに打ち込む性格だ。そのため、両親ともに一度も心配をかけたことがない。

それに対して、姉の結衣はものごとに寛容・・・というかおおざっぱでルーズ。何をしても長続きしない。部活や習い事もすぐに止めてしまう。だから、両親、特に母親からは「心配のタネ」だと、いつも言われていた。

年月が流れ、二人とも「恋」をして、めでたく家庭を持った。偶然にも、私も、姉も、実家の近くに新居を構えた。結婚したというのに、相変わらず姉のルーズな性格は治らない。結婚前に、料理教室に通ったが、三日坊主。そのツケが回って、毎日の献立には四苦八苦していた。姉は困ると、すぐに実家に駆け込む。そして、母の作ったおかずを、パックに詰め込んで持ち帰る。
「実家が近いって、ホント大助かりだわ」
などと、うそぶいている。

それに比べて、私にはセンスがあるのだろう。ネットで有名シェフのレシピを調べ、チョチョッイと何でも作れてしまう。誰にも頼らず、なんでも一人でできてしまうのだ。そしてさらに年月が流れた。

私は、心の中に「淋しさ」を抱くようになっていた。姉は、すっかり実家に入りびたりで、年老いた両親と、まるで友達みたいな付き合いをしている。旦那や子供の世話も適当にして、両親と一緒に夕ご飯を食べ、さらには父の晩酌の相手をして酔っ払い、結局、実家に泊まることもしばしばだった。

それに対して、品行方正な私は、両親に甘えることも、迷惑をかけることもなかった。それは、「良い事」のはずなのに、なぜか淋しくてたまらない気がするようになったのだ。

そんなある日、母親が救急車で運ばれた。たまたま、姉が深酒して泊まった日の夜中の出来事だった。姉が救急車に同行した。急性胃炎とのことで、担当医からは「数日の入院でおうちに帰れますよ」と言われ、ホッとした。

病院の待合室で、姉と二人きりになった。良い機会だと思い、この頃募る「淋しい思い」について打ち明けた。
「なんだか、お姉ちゃんが羨ましいよ」
と。すると、姉から意外な言葉が返ってきて驚いた。
「何言ってるのよ、あんた。心配かけるのも親孝行なのよ。甘えたり、迷惑かけるのも大切な事なのよ」
「え?!お姉ちゃん、まさか、わざと・・・」
「そんなわけないじゃない」
と、姉は本当とも嘘ともつかない表情で笑った。