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第1829号 ほろほろ通信『さよなら運転の日の出来事』志賀内泰弘

知多市の清水多紀子さん(68)の2歳になるお孫さんは電車が大好き。遊びに来るたび、近くの駅まで連れて行く。金網越しにホームに停車する電車を何台も見送る。運転手さんや車掌さんに「バイバーイ」と手を振るのが楽しみになっている。

さて、ある日のこと。清水さんが近くの踏み切りを歩いていると、線路に向けてカメラを構えている何人かの若者が目に入った。
ふと新聞の「名鉄パノラマカーさよなら運転」の記事を思い出し、そのうちの一人に「もしかして、これからパノラマカーが来るんですか」と尋ねると「そうですよ。もうすぐです」という返事。

「孫が電車が大好きなので見せてやるわ」と言い、慌てて家に戻った。隣の家とのすき間から、窓越しに赤い電車を二人で見る。お孫さんは大喜びだった。

しばらくたった4月8日の夕方のこと。呼び鈴が鳴って玄関に出ると「この近くで電車の写真を撮っていた者です」という若者が立っていた。あの日、清水さんが尋ねた若者だった。「常滑に来る用事があったので、帰りにお届けしようと思って」と、かばんから電車の写真を取り出して差し出した。

「お孫さんにどうぞ」

家を教えた覚えはない。ずいぶん探してくれたのだろう。「お金を払います」と言ったが受け取らない。帰られてから気付いた。名前も聞いていないことに。「もう一度お礼を」と思い駅まで駆けたが、電車は出てしまった後だった。

数日後、やって来たお孫さんに写真を見せると大喜び。ずっと離さずに手にしている。
「お兄さん、本当にありがとう」

<中日新聞掲載2009年06月07日>