たくさんのいい話をたくさんの人に読んでもらいたい・届けたい・広げたい【運営】プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動

無料メールマガジン
いい話を読む
いい話を投稿する
みなさんの感想
いい話グッズ購入

いい話を読む

第1822号 ほろほろ通信『おじいさんの松の木』志賀内泰弘

知多市のシルバー人材センターに勤める深川博次さん(63)は、3年前の2月、1本の電話を受けた。それは市民病院に入院中のおじいさんからで「わたしの大事にしている庭の松の木を手入れしてほしい」という依頼だった。

ご自宅に伺うため電話をすると、家族の方が出られた。「手入れしてもらわなくてもいい」という返事。他意はないが「そこまで面倒をかける必要はない」という感じだった。

深川さんは家族の意向を伝えるため、市民病院を訪ねた。おじいさんに面会すると、ずっと自分が剪定(せんてい)をしてきた大切な松なので、どうしてもお願いしたいという。「先生に1日だけ退院の許可をもらうので、その日に来てほしい」と、あらためて頼まれた。

さて、指定された日時にセンターの登録者3人が道具を手に自宅の前まで行くと、救急車が止まっていた。松の木の剪定を楽しみに待っていたおじいちゃんは、再び病院へ搬送されてしまった。そして…。その数日後、おじいちゃんが亡くなったことを知らされた。

その年の4月に入ったある日のこと。おじいちゃんの息子さんからセンターに電話があった。「おじいちゃんの松の木を、手入れしていただけませんか」。深川さんは、その「おじいちゃんの…」という言葉に胸が痛むとともに、家族の温もりが伝わって来た。

以来毎年、春になるとセンターから松の手入れに伺う。深川さんは、さっぱりとした姿の松を見に行くのを楽しみにしている。「年老いていく自分と重ね合わせて、そっと手を合わせるのです」とおっしゃった。

<中日新聞掲載 2009年5月10日>