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第1811号 ほろほろ通信『「おくりびと」に感謝』志賀内泰弘

名古屋市港区の鈴木喜子さん(76)は2月16日にご主人を亡くした。ついこの前まで元気だったのに、肺炎にかかってわずか8日後のことだった。まさしく悲しむ暇もなく葬儀を終えた。その数日後に、映画「おくりびと」がアカデミー賞受賞のニュース。お世話になった納棺師のお二人のことを思い出した。

「湯灌(ゆかん)をさせていただきます」と丁寧に挨拶をされ、部屋に入って来られた。ご主人の顔を洗い、ひげをそる。シャンプーで丁寧に洗髪し、顔のマッサージまでしてくださった。周りで見守る家族に「お一人ずつかけてください」と、手桶(ておけ)と柄杓(ひしゃく)を渡される。足元から胸へと順に湯をかけていった。

ふと顔を見ると気持ちよさそうに見えた。「お父さん笑ってるよ。一週間もお風呂に入れなかったからねえ」。娘さん、弟さん、お孫さんたちも「やっぱり笑ってるわ」「本当だ」と口々に言う。「よほど気持ちいいのね」。実は、あらかじめ頼んでおいたことがあった。秋田生まれのご主人がお気に入りの、かすりの着物を着せて欲しいと。鈴木さんが縫ったものだ。それを身にまとい、やすらかな顔つきになった。

納棺師という仕事があることを、初めて知ったという。悲しみは変わらない。しかし、その悲しみの中にほっとする温かみをいただくことができた。「きっと主人も気持ちよく旅立ったことでしょう」と鈴木さんはおっしゃった。

<中日新聞掲載 2009年3月29日>