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第1701号 ちょっといい話『お客様に勝っても負け、負けても負け』志賀内泰弘

仕事には、クレームが付き物です。接客業や製造業はもちろんのこと、総務や経理などの間接部門でもクレームに悩ませされる人も多いようです。ひょっとすると、クレームに無関係な仕事はないのかもしれません。

クレームと言っても、さまざまです。こちら側に明らかに100%責任がある場合には、ただ平身低頭お詫びするしかありません。でも、中にはどう考えても不条理だったり、犯罪の一歩手前の言いがかりものもある。そうとはわかっていても、対応する責任者としては「好きにしてください」と開き直って言うわけにはいきません。

鈴木マサカズさんの「銀座空丸百貨店お客様相談室」(講談社)は、タイトルにあるように、さまざまなクレームに対応するお客様相談室の奮闘ぶりを描いたコミックです。その原案協力しているのは、実際に百貨店で1300件以上のクレーム対応をしてきたという「具象処理のプロ」の関根眞一さん。どのエピソードも、「納得!」と言わしめるものばかりです。

さて、その一つ。
ある日、銀座空丸百貨店にお得意様で二世議員の小諸龍之介氏からのクレームに悩まされます。地下二階のティーランウジで、セカンドバッグを置き引きに遭ったというのです。その犯人を捕まえるため、防犯カメラを確認しろという要求をされました。警察でもないのに、そんなことはできません。また、個人情報二世議員と言うプライドの高さも、話し合いの壁になっていました。
「どこかにバッグを置き忘れた可能性は?」
と尋ねても、取り付く島もありません。ただ、「防犯カメラを見せろ」の一点ばり。困り果てた相談室員を引き揚げさせ、銀崎相談室長が指揮を執ることにしました。

実は、ティーランウジには防犯カメラの設置がなかったのですが、館内のあちこちの防犯カメラの映像を解析し、小諸氏がティーランウジに来るまでに立ち寄った場所を確認しました。すると・・・地下二階のトイレの個室に、セカンドバッグが置き忘れてあったことが判明しました。
でも、銀崎相談室長は、そのことをすぐに二世議員の小諸氏に知らせませんでした。なぜなら、中身を盗まれたりして紛失している恐れがある。何より、小諸氏が自分で置き忘れたということになったら、恥をかかされたということで、引っ込みがつかなくなります。
そこでまず、応接室に招いて小諸氏にビールを飲ませて時間を稼ぎました。たくさん飲んでいるうちに、トイレに行きたくなります。閉館時間が過ぎたということで、なんだかんだと言い訳をして、応接室から再び、地下二階のトイレへと誘導します。
そのトイレの中で、何か所かある個室に、「使用禁止」の張り紙を張っておく。そして、たった一つだけ、張り紙のない個室を残しておきました。小諸氏は、そこで、ハッとします。先ほどその張り紙のしていない個室に入ったことを思い出したのです。扉を書けると・・・そこには自分のセカンドバッグが棚に置いてありました。
ばつの悪い小諸氏。
今さら、自分でトイレに置き忘れたなどい言えやしない。スーツの内側にバッグを隠し、そっと帰って行きました。

それをこっそり見ていた相談室員は口々に言います。
「あれだけ置き引きを主張されていて素直に置き忘れていたと認めていただけるのでしょうか・・・」
「さすがに一言すみませんでしたくらいはあるんじゃないかな?」

それに対して、銀崎相談室長は言います。
「いや謝罪はまずないだろうな。もちろん置き忘れをお認めになることもない」
「我々の仕事はお客様を打ち負かすことではない」

もちろんこれはドラマ。マンガの世界です。でも、お見事としかいいようがありません。さらに銀崎相談室長の言葉が胸に刺さりました。

「あくまでお客様の苦情の裏にある悩みを取り除くことだ。そして再び空丸百貨店にお越しいただくことだ。お客様に勝っても負け、負けても負け」

仕事人として、実に魂のこもった名言です。