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第1487号 ちょっといい話『半人前、バンザイ!』志賀内泰弘

私は、大学を卒業した後、就職しました。
時は、バブルの坂の道を上りつつありました。
最初に配属された部署では、係長も課長も、
そして先輩たちも親分肌で
とても可愛がってくれました。
 
ちょっと、刑事部屋みたいな雰囲気があり、
教え方が乱暴なところがありました。
とにかく実践第一。
先輩の口癖は、
「お前は半人前だ!
でも、半人前だからといって、臆病になるな。
どんどん行け。
失敗したら、俺たちが付いている。
そのために、上の人間がいるんだ」

 
今、思うと、本当に恵まれていました。
最初は、恐々でしたが、チャレンジ精神で仕事を覚えました。
本当に、とんでもない失敗をやらかしてしまい、
真っ青になる中、直接、課長に付き添ってもらい
助けてもらったこともありました。
 
その後、仕事を身に着けるに従って、
私は調子に乗るようになりました。
 
バブルの頂点の頃には、
「俺が一人で、全社員の給料を稼いでやっているんだ」
と思うほどになりました。
いえ、思うだけではなく、
たぶん、知らず知らず酒の席で口にしていたかもしれません。
 
そして、バブルが崩壊。
どうあがいても、成績が上がらなくなりました。
私は勘違いをしていたのです。
成績が良いのは、実力ではなかった。
バブルの時代、誰もが上手くいっていただけなのです。
 
私は、バブルから学びました。
傲慢こそ、己の一番の敵であると。
会社の仕事だけでなく、
株式投資でもずいぶんと痛い目に遭いました。
 
「半人前」の頃は、誰かが助けてくれました。
「半人前」の頃は、少なくとも、傲慢ではありませんでした。
先輩に言われた「お前は半人前だ!」という言葉が、
懐かしく思われました。
 
伊集院静さんの直木賞受賞作の短編集「受け月」に、
「冬の鐘」という作品があります。
主人公の久治は、修業の後、料理屋を開業します。
両親をなくしていた久治は、父親のように
思っていた問屋のおやじさんに
店の名前を付けてもらうことになりました。
 
「はる半」
それが店名でした。
おやじさんは、自らの手で半紙に書きながら、こう言います。
 
「“はる半”だ。久治の治をとったと思ってもいい。
引き出しはな“めでたさも中くらいなりおらが春”って俳句があるんだ。
俺は勝手に、めでたいことも何もかも半分くらいが
身のほどって解釈をしたんだ。
春の半分くらいのあったか味で店をやって行け」
 
「はいわかりました」
と答えた久治に、おやじさんは、さらに言います。
「いや、わかっちゃいめえ。そんなに簡単にわかりはしめえ。
いいか、おまえは腕も経験も何もかもが半人前だ。
全部合わしても半人前だから、残りの半分は正直で足して行け。
久治って人間が半人前だと憶えて仕事をしな」
 
そうなんですね。
半人前って、悪いことじゃないのです。
半人前だとわかっているから謙虚になれる。
半人前だとわかっているから、それを補おうと頑張る。
 
半人前、バンザイ!です。
 
実は、この小説のおやじさんの言葉には続きがあります。
久治の奥さんの由紀子が、
「いい名前じゃない、あったかそうで」
と言うと、こう諭します。
 
「おまえたちは二人で足して、ようやく一人分だろうから、
どっちかが欠けたら店は終りだって思えよ」
 
半人前プラス半人前が夫婦。
半人前って深いなあ。