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第976号 ちょっといい話『にせものボランティア』志賀内泰弘

こんな話を耳にすると、なんだか寂しい気持ちになります。 中学では、内申書というものがあります。これは高校受験に際して重要視されます。 その内申書の点数を良くするのが目的で、ボランティア活動をする生徒がいるというのです。

ひょっとすると、誰にも知られず、陰でボランティアをしている生徒もいるでしょう。 町内の清掃活動をしたり、近所のお年寄りのために買い物に行ってあげたり。 「こんなボランティアをしています」と自己申告した人の点数が上がり、 何も主張しない人は点数に反映されない。そういうこともあるかもしれません。

ボランティアは、本来、報酬が目的ではないはずです。 なんだか、そこが割り切れません。 でも、「こんな考え方もあるな」と思いました。

八代将軍・徳川吉宗にまつわる有名なエピソードです。 吉宗は鷹狩に出掛ける前に、その地域に「善行者、とくに孝行する者はいないか」と調べさせていました。 そして、その者を表彰しました。 やがて、「良い事をすると公方様からご褒美をいただける」という噂が広まったそうです。

あるとき、鷹狩りに出掛けると、行列の前を横切る者がいました。 背中に老人を背負った若者でした。驚いた村役人が追い立てると、吉宗が見とがめます。

「なぜ、その若者を追い立てるのだ」 「はい、この者は、いままでほったらかしにしていた親を、急に背中に背負って出てきたのです。 本当は親不孝者で、村の恥でございます。わたしどもで懲らしめますので、どうぞお見逃しください」

すると、吉宗は、

「親孝行というのは、たとえ真似事でも尊いものだ。その者にも褒美をとらせよ」

と指示しました。さらに、ほかにも親孝行を真似する者があれば、 そのたびに褒美を与えよ、と言いました。

「良い事をすれば、ご褒美がもらえる」という噂が広まれば、 いつしか親孝行をする者が増えるのではないか。実は、それこそが、吉宗の思惑でした。

さて、中学生のボランティアの話です。子供の頃から、なかなか他人のために尽くすことはできません。

自分のことで精一杯。 悩みもあれば、挫折もする。 恋もケンカもしなくちゃいけない。 できなくて、当たり前です。 子供の時から、「自分よりも他人が先」などいう考え方ができたら、 それはもう神様です。

でも、でも、仮に「内申書で良い点数をもらいたい」という下心があったとしても、 ボランティアをしていることには違いありません。 中身(心)は伴っていないけれど、外見(形)はできている。

それでもいいじゃないか。 それは、いつの日か、自然に身につくはず。 さらに、「やらない」よりは、「やった」方がいい。 最初は、「にせもの」でも、やがて「ほんもの」になる。

吉宗のエピソードは、「まずは形から」ということを教えてくれます。

(参考)童門冬二著「童門冬二の歴史に学ぶ知恵」中日新聞社