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第1580号 ちょっといい話『〈第7回言の葉大賞入選作から〉(その2)「今、ここに教育現場が在る」』志賀内泰弘

一般社団法人「言の葉協会」では、全国の小・中学校。
高等学校から毎年のテーマに合わせた大切な人への思いや
強く感じた気持ちを自分の言葉で綴る作品を募集し、
その優秀作品を「言の葉大賞」として顕彰しています。

「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動事務局が主催している
「たった一言で」コンテストと、大いに趣旨が重なります。
そこで、第7回言の葉大賞の入選作品から、
特に心に響いた作品を紹介させていただきます。

*   *   *   *

「父親」

私立滝高等学校
遠山 健悟
私には父がいない。最近よく聞くシングルマザーというやつだ。
だがそのことに引け目は感じない。
なぜなら私にはたくさんの「父親」がいるからだ。

我が家は私が小学一年生の時から父と離れて暮らしている。
特に不自由なく、むしろ新しい友達もできて楽しかった。
しかし、小学校高学年のとき友達にあることを聞かれた。
「健悟のお父さんの仕事は何?」
私はとっさに「カメラマンだ」と答えた。離婚した父の職業である。
それから私は「父親」という存在について考えるようになった。
お父さんとはどういうものなのだろう。
その問いが私の奥に常にいた。

そんなとき、母がこんなことを言った。
「健悟には、たくさんのお父さんがいるね」
その言葉は私の中にすっと入ってきた。確かに私に父はいない。
しかし「父親」の役割を果たしてくれる人はたくさんいるのだ。
祖父は天体観測を教えてくれたり、キャッチボールをしてくれたりする。
また勉強や将棋まで教えてくれる。
祖母は母の帰りが遅い日には、世話をしに泊まりに来てくれた。
ボーイスカウトの隊長は、帰宅後一人の小学生の私を世話してくれたり、
彫刻を教えてくれたりした。

他にも叔父や叔母、知りあいのおじさんなど多くの人の世話になった。
もちろん母も例外ではない。私にとって母も「父親」だ。
家事をやりながらもバリバリ働く母は、
外で家を支える「父親」であり、温かく家庭を守る「母親」なのである。

それからは父がいないことに引け目を感じることはない。
確かに父の仕事を聞かれたときは困ってしまうが、
そういう時には「保育士だ」とか「研究員だ」とか「職人だ」など答える。
どれも私の「父親」の職業だ。
面と向かって感謝するということは、なかなかできないが、
その背中を強く尊敬している。そして思うのだ。
私も彼らのような「父親」になりたいと。