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◆志賀内の愛読新聞

第412号ちょっといい話『宮城県のとあるスーパーのプチ淑女』志賀内泰弘

平成22年10月5日、ご縁があって宮城県気仙沼市の本吉響高等学校で 講演させていただく機会に恵まれました。タイトルは「幸せになれる働き方」です。

近い将来、社会に出て働かなければならないことに不安を抱いている生徒さんたち。 「彼らに自身を持たせてやって欲しい」という依頼を受けました。

そこで、講演の中で、こんなお話をしました。

「例えば、2件のコンビニが近くにある。  一軒はいつも「ありがとう」と笑顔で応えてくれる店。もう一軒は無言で無愛想。  あなたなら、どちらのコンビニで買い物をしますか?

働くというのは、人に喜んでもらうということ。  お客様が喜べば、自分も嬉しい。

ひいては、上司や社長からあなた自身が認められる。出世する。給料が上がる。  だから、いつも相手の立場に立って、喜んでもらえるようと努めることです。  挨拶や笑顔はタダです。簡単でしょ!」

講演が終わって応接室に戻ってきました。 すると、教頭の一條博之先生が、

「この町に唯一あるスーパーマーケットのレジに、ステキな女性がいるのです」

とおっしゃいました。 それは、こんな話でした。

*   *   *   *

昨年の夏、ついに隣の市(気仙沼市)との合併が現実のものとなりました。

農林業を基幹として人口1万1千余人の東北の田舎町は、 それでもこれまで十分に自主自立の道を歩んできました。

太平洋に面した町の東側には、狭いながらも美しい漁港がいくつかあり、 近海での漁業で生活が成り立っていたし、夏ともなれば、 ハマナスで知られる美しい海水浴場も毎年活況を呈していました。

町の中心を走る国道沿いに、数百メートルにわたって商店が軒を並んでいます。 とはいえ、すでにシャッターが降りたままの所も少なくありません。 過疎の波はここにも確実にその影を落としているのです。

町の北端の山間に金鉱があり、その近くには鉱夫たちのための社宅や映画館もあったといいます。 しかし、今は、採掘跡に小さな資料館が建てられているだけで、訪れる人もまばらといった感じです。

先日、テレビで軍艦島の様子を見ましたが、無人となった今からみると、 そこに暮らしていた人たちがいたのを想像するのは決して容易ではありません。

時の流れには抗うことはできませんが、 それでもこれまで息づいてきた町の歴史を大切にしたいと思うものです。

この町に、唯一のスーパーマーケットがあります。 買い物はここにくれば欲しいものがほぼ完全に賄うことができ、何とも頼りになるところです。

ここに、プチ淑女がいます。レジに黒木瞳似の店員さんです。 彼女は、いつ行っても笑顔ではつらつとして元気印。

彼女の何気ない会話もレジ打ちのスピードも丁度よく、 客をいらいらさせることがありません。

なんと気持ちがよく、また心が落ち着くことか。 お年寄りには、買い物の合計金額を知らせると同時に、 買い物をしたカゴを袋詰めするテーブルまで運んでくれます。

サービスといってしまえばそれまでですが、果たして社員教育の成果なのか。 いえいえ、それだけではないでしょう。

彼女を見ているとつい、人間が好きで、人と関わることが好きで、 人が喜んでくれることが何より嬉しい、そんな「人柄」を想像してしまいます。

「人徳」というものでしょうか。 「天賦の才能」か。

人を喜ばせることができる能力は、何物にも代え難い才能だと思います。 コンビニの、似たり寄ったりのマニュアル対応に、 いささか閉口していたところでした。

過疎の町にスーパー進出。何処もそうであるように、 「こんな田舎町にもマニュアル対応の味気ない都市型生活が侵食してきたか」 と思いきや、まだまだ優しい温もりを持った人がいたことにほっと胸をなでおろしています。