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第1467号 ちょっといい話『泣きたくなったら・・・』志賀内泰弘

おそらく、一つの「苦労」もせずに
人生を最期まで送れる人はいないでしょう。
 
辛いこと。
悩むこと。
悲しいこと。
寂しいこと。
 
それを通り越して、悶えだけでなく、
「死んでしまったら、どんなに楽だろう」
なんて考える人もいるでしょう。
 
もし、学校の授業に、
「辛いことがあった時、どうしたらいか」
などという科目があったら、どんなにいいだろう
などと考えることがあります。

社会に出るということは、苦労の連続です。
社会に出た時に役立つことを教えるのが
「教育」ではないかと思うのですが・・・。
 
さて、高倉健さん主演で映画化もされた大ベストセラー
「鉄道員(ぽっぽや)」で直木賞を受賞した浅田次郎さんの作品に、
「霞町物語」(講談社文庫)という小説があります。
東京の霞町に住む「僕」が主人公。
認知症の進む祖父と父親が営む写真館を舞台に、
胸がギュウと苦しくなるほど、
せつなくほろ苦い感動連作ストーリーです。
 
高校の卒業の記念に、祖父が「僕」と、
幼い頃からの友達のキーチと良治の三人の写真を撮ると言いだします。
三人を、それぞれ椅子に座らされてシャッターを切ります。
 
良治の番になった時、祖父は言います。
ここからは、本文からの抜粋。
 
    *    *    *    *
 
 
「おめえは唇がひしゃげている」
祖父は良治に向かって言った。
「え?――そうですか」
「人間、どうすりゃ口が曲がるかしってっか?」
「知らねえ」
「嘘ついたとき。分不相応の見栄を張ったとき。
 うんざりと愚痴を言ったとき」
「はあ・・・」
と、良治は気まずそうに小さな会釈をした。
「要するにおめえは、嘘つきの、ええかっこしいの、
 愚痴っぽいやつだ――ああ、そうそう、あとひとつ。
 ずっと写真を撮っていると口が曲がっちまう」
片目をつむり、唇をひしゃげたまま
祖父はファィンダーから顔をもたげる。
「こんなふうによ」
むろん、それは洒落だ。
祖父はどんなときどんな相手にも、
ふしぎなくらいまっすぐ向き合った。
「どうすりゃ治るかな」
「簡単さ。笑うときは大口をあけて笑う。ワッハッハッ」
「ワッハッハッ」
「そうだ。そんで。泣きたくなったら奥歯をグイと噛んで辛抱する」
良治は道化て口を噤んだ。
「こう?」
 
    *    *    *    *
 
 
いかがですか。
「笑うときは大口をあけて笑う。ワッハッハッ」
「泣きたくなったら奥歯をグイと噛んで辛抱する」
この二つを守れたら、
たいていのことは、乗り越えられそうな気がします。
あまりにも簡単だけど、
いや、単純だからこそ、
わざわざ誰も教えてくれない気がします。
 
それを教えてくれるのが、
お爺ちゃん、お婆ちゃんなのかもしれません。
 
話には続きがあります。
祖父は、こう言います。
 
 
    *    *    *    *
 
 
「オーケー。男は毎日それの繰り返し。
一生それの繰り返し――ハイ、
撮ります。あっち、ねえ、さん」
 
 
    *    *    *    *
 
そうなのです。
笑う時には、思いっきり笑う。
泣きたいときは、グッと耐える。
人生とは、その繰り返しだと。
 
人の一生は、「そういうことの繰り返し」だと、
若い頃から教えられていたら、
「何かあった」時、それだけで乗り越えられる気がするのです。
心の準備というのでしょうか。
 
そんな授業が中学か高校であったなら、
その後、私の40年間の人生は
違っていたものになったかもしれません。
いや・・・変わらないかな?
体験しないものは、身に付かないとも言いますからね。