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月刊誌プチ紳士からの手紙






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第1204号 ちょっといい話『〈言の葉大賞入選作から〉(その2)・・・「言葉の力」を感じるとき』志賀内泰弘

京都に柿本商事株式会社という会社があります。紙専門の商社です。 寺町通りで「紙司柿本」という小売店も経営しています。

偶然ですが、この店の大ファンで「かばんが重いよ~」と後悔するほど、 ハガキや便箋を買い込んだことがあります。

さて、柿本商事さんではCSRの一環として、 言の葉大賞というコンテストを開催しておられます。

「心温まる言葉、心にぐっと響く言葉、そのような伝えたい思いを、 紙にしたためご応募ください」と全国に呼び掛けられました。

「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動事務局が 主催している「たった一言で」コンテストと大いに趣旨が重なります。

そこで、第五回言の葉大賞(第四回までの「恋文大賞」から呼称変更)の入選作品から、 いくつかをシリーズで紹介させていただきます。

   *   *   *   *   *

入選 文章(手紙・作文)部門 「泰山木の花」鳥取県米子市 宮原 玲子

昭和五十年代半ば、私は大阪日赤病院に就職した。 鳥取に嫁ぐまでの三年間、私はここで青春を過ごした。

当時の呼吸器科病棟の門の横には泰山木が立っており、 初夏に両方の手の平を並べたくらいの白い花が咲いた。

そのころ、肺癌末期の六十歳のKさんが入院していた。 体を清拭したり、点滴を交換する時に、ナースのお尻にタッチしてきた。

ある日、主治医の市谷部長に、 「何回もお尻をさわりはるんです。やめるように注意してください」 私は直訴した。 先生は眉間に皺を寄せ、思案した後、 「彼の病気の進行はかなり早いんや。  あと少しの間やから触らしてやってくれへんか。頼む」 新米ナースの私に頭を下げた。Kさんは先生の親友だった。 被害に遇っていないベテランの谷口ナースや婦長さんが声を上げて笑ったので、 私は口を尖らせた。

しかし、後で、(怖そうな先生やけど、ほんまはええ先生なんやわ)と、気が付いた。 一カ月後、Kさんは鎮痛剤の注射を打ち続けながら亡くなった。

新人ナースにとって、患者の死に立ち会うことは恐怖である。 ある患者が亡くなった翌日に、 「自分の夜勤の時やのうて良かった」 私は本音を漏らしてしまった。 それを聞いていた谷口ナースに、強い口調で説教された。

「あんたの考えは間違っているで。自分の親でも死に目にあわれへん人はぎょうさんいるんや。  患者さんが亡くなりはる時に立ち会うということを、もっと大事に思わなあかんで」

誰も反論せず、詰め所は静かになった。 去年の春に退職するまでの三十四年間、 私は多くの患者さんの臨終に立ち会ってきた。

そのたびに谷口ナースの言葉を思い出して、 深い思いで患者さんに手を合わせてきた。 数年前に日赤病院は新築され、泰山木は切り倒されてなくなったが、 あの白い清らかな花は、青春の頃に出会った人々が教えてくれた言葉と共に、 私の心に咲き続けている。

○入選作品集がお求めになれます 「「言葉の力」を感じるとき」 【編】一般社団法人 【発行】言の葉協会京都柿本書房 http://www.kotonoha.or.jp/pub/