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第949号 ちょっといい話『5年かかって重版になりました』志賀内泰弘

今まで、PHP研究所さんから4冊の本を上梓していただきました。 今、5冊目の本を作っているところです。

ずっと、PHPさんから本を出すのが夢でした。 そう願ってから、実際に1冊目の本が出るまで10年くらいかかりました。

その記念すべき1冊目の本が、 「毎日が楽しくなる17の物語」です。 今から5年前に発売になりました。

編集者も、普及部(営業部のことです)の方も、ものすごく力を入れて下さり

「毎月50冊くらいの本を当社から出版するけれど、  この本は、PHPの理念にぴったりで、ど真ん中ストライクです。  ぜひ、売らせていただきます」

と言って下さいました。

しかし、実際にはベストセラーどころか、重版もかからず、

「中身は、ものすごくいい本なんです。私も感動しました。  志賀内さん、大丈夫! この本は息長く売って行きます」

と言われたのですが、私には慰めにしか聞こえませんでした

でも、たいへん読者からの反響が大きい本で、 大手コンビチェーンで、研修に採用いただいたり、 高校の授業でサブテキストに使っていただいたり、 医療関係の施設で、全スタッフに配布して教育に活用していただいたり、 と、手ごたえは十分にありました。

そして5年が経ちました。 コツコツと売れ続けたおかげで、 このたび重版になりました。 総計1万部を超えました。 これは、本当に珍しいケースです。

本というのは、発売して1週間が勝負です。 まず、書店に並べていただけるか。 次に、1冊ではなく、何冊も良い場所に平積みにしていただけるか。 そこで、売れ行きが悪いと、すぐに返本されてしまいます。 そして、早い出版社では、1年もしたら断裁処分され絶版扱いになります。

そんな中、よくも息長く生き残って売れていてくれたと感謝の気持ちでいっぱいです。 ベストセラーじゃないけれど、今後もジワジワと売れてロングセラーになったらいいなあと願っています。 作者は、書いてしまったら、後は「祈る」しかないのが苦しいところです。

今回、重版に際して、カバーデザインも一新していただきました。 もし、まだの方がいらっしゃいましたら、ご一読いただけたら幸いです。 「毎日が楽しくなる17の物語」の中から、一部を転載させていただきます。

   *   *   *   *

「おだいじに」

モスバーガーの本社に勤める知人から、こんなお話を教えてもらいました。 お客様から、モスバーガーの社長さん宛に届けられた1通の手紙、いわゆるサンキューレターです。 それは、こんな内容でした。

午前10時半頃。国立がんセンターに入院中の15歳の次男に、「テリヤキバーガーが食べたい」と言われ、 少し遠いのですがウインズ銀座前にあるお店に買いに行きました。

店には、女性の店員が一人でした。朝のメニューにはテリヤキバーガーがないので躊躇していると、 彼女は欲しいものを聞き、「少しお時間をいただければお作りします」と言ってすぐに準備を始めました。

そのとき初めて入院中の子供に持っていくことを話しました。 このような店には、マニュアルとおざなりの対応しかないものと思っていたので、 彼女の対応がとても驚きでした。

注文の品を受け取り、店を出ようとする私に、 彼女は、「おだいじに」と声をかけてくれました。 年甲斐もなく、ジーンとしてしまいました。

そして、さらに驚いたのは、病院に帰り袋を開けてみると、 中にはメッセージカードが入っており、

「早くよくなって下さいね」

と書かれてありました。 息子が発病してから1年余り、辛いことばかりの中で、 知人・友人以外の方からのこんな優しい気持ちに触れたのは初めてです。

生来、彼女の持っている性格も素晴らしいのでしょうが、 それを日々の仕事の中で表に出せるような接客を貴社がされているとしたら、 大変素晴らしいことだと思います。

店が場外馬券売り場の前という比較的荒々しい場所で、 若い女性が優しい気持ちを失わず働いていることに本当に感動しました。 お礼を言う機会がなかなかありませんので、会社宛にしました。

ちなみに、メッセージカードには、工藤さんという名前が書かれてありました。

ーーーー

「おだいじに」から学ぶ「気づき」のキーワード

「『私には何ができるのだろう』と いつも考える習慣を持つ」

   *   *   *   *

感動しました。泣けてしまいました。なんて優しい心根の女性なんだろう。 そう思うと、居てもたってもいられなくなり、工藤さんに会いたくなってしまいました。 なんだか「ありがとう」と言いたくて。

それから間もないある日のこと、モスバーガーの本社に知人を訪ねました。 そして、工藤さんに引き合わせていただくことができました。 とびきり笑顔のステキな女性でした。

今は、スタッフの教育の仕事をされているとのことでした。 工藤さんは、こう言っておられます。

「特別な意識はぜんぜんなくて、決められたオペレーションの中で  お客様に何かが伝わればいいなぁと。  接客という言い方はあまり好きではありません。  コーヒー一杯でも『生きていてよかったなぁ』と思われるような出逢い、  ふれあい、コミュニケーションにモスバーガーの存在意義があるのではないか。  そして、私が働いている意味もあるのではないかと思っています」

ほとんどの業界のほとんどの仕事にはマニュアルというものがあります。 それは、誰がやっても同じ対応が可能なように作られたものです。 だから、マニュアル通りにやっていれば上司に叱られることはありません。

でも、それだけでは何かが足りない。マニュアルとは、最低点をクリアするためのものだからです。 彼女は、とっさに考えたのでした。

「お客様のために、自分はいったい何ができるのだろう」

心のもやもやを吹っ切るために、一歩踏み出して、メッセージを書いたのでしょう。 それは、人としての、ごく自然に湧き出した「思いやりの心」にほかなりません。

「私は何ができるのだろう」 「あなたのために……」

その問い掛けが工藤さんの「やさしさ」を伝えたのです。 「やさしさ」は笑顔となって還ってきます。