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第1400号 ちょっといい話『はいドーン』志賀内泰弘

2016年5月29日付け朝日新聞の
「天声人語」に、こんな心温まる話がありました。

     *     *     *     *

鹿児島交通で長距離バスを運転する村瀬芳尚(39)は 
もめないよう一計を案じた。走り出してすぐマイクで語りかける。 
「後ろの方が気になって席を倒しにくいってことありますよね。
後腐れのないよういま一斉に倒しましょうか。はいドーン」 
効果はてきめん、乗客が苦笑いしつつこぞって倒しにかかる。
運転手が言うなら気兼ねはいらない。さえた車内放送を
ツイッターで紹介した客がいて、評判は広がった。
乗客マニュアルに書かれていたわけではない。 「倒す倒さないでもめると、終点の福岡まで6時間
 ずっと雰囲気が重くなります。僕が声かけ役を
 一手に引きうけようと考えました」(一部抜粋)

     *     *     *     *

いかがでしたか?
ここで、なんとも愉快なのが、
「はいドーン」というセリフですね。
その場に居合わせられなかったのが残念です。 形式的なものではなく、フランクなのでみんなの心に響くのでしょう。
実は、「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動事務局にも、 今までバスや電車の中での、心温まる「いい話」が寄せられました。 同様に、運転手さんのアナウンスにまつわるエピソードはたくさんあります。 もうお読み下さっている方も多いかと思いますが、 拙著「毎日が楽しくなる17の物語」PHP研究所 から、一つ紹介させていただきます。 これは、志賀内が講演の「前フリ」で、身振り手振りをしながら よくお話させていただくものです。

     *     *     *     *

「押してもいい?」

中日新聞で、「ほろほろ通信」というコラムを連載しています。
読者の皆さんからお寄せいただいた、身の回りの心温まる出来事を紹介するコーナーです。
愛知県津島市にお住まいの古屋きみ子さん(六一)から、こんな「ほろほろする」お話が届きました。 二人のお孫さんとお墓参りに出かけた時のことだそうです。
津島市から愛知県の東端にある豊橋市までは、
途中乗り換えを含めて一時間半ほど電車に乗ります。

そこからさらにバスに乗り換える。八歳と六歳の女の子にとっては、
ちょっとした旅です。帰りのバスの中でのことでした。 お孫さんたちは運転手さんの真後ろに陣取りました。
次の停留所がアナウンスされます。お孫さんたちは、
古屋さんに尋ねました。
「押してもいい?」 と。 「だめよ」 と答えましたが、よほど降車ボタンが気に入った様子。
アナウンスのたびに何度も二人で、 「押してもいい?」 と聞いてきます。 その様子を耳にしていた運転手さんが古屋さんに、 「どこまで行かれますか」 と尋ねました。降りる場所がわからないのではないかと気遣ってくれたようでした。 「終点まで行きます」と返事をしました。
やがて終点を告げる録音のアナウンスが車内に流れました。
お孫さんたちはボタンを押さなくてもよいことがわかり、
がっかりしてしまいました。 その時です。マイクを通して運転手さんの声が聞こえました。 「ボタン押してもいいよ!」 上の子は古屋さんの顔をのぞき込むようにして、 「いいの?」と聞きました。 「うん」 と言うと、すかさずボタンを押しました。 「ピンポーン」 にっこりとして本当にうれしそうでした。 またまた運転手さんの声が車内に流れました。 「もう一人の子も押してもいいよ」 下の子も喜んで、 「ピンポーン」 乗客全員がその様子を見ていました。
バスを降りると二人とも大きな声で運転手さんに、 「ありがとう」と言って手を振りました。

ところが、終点なので時間が来るまでバスはなかなか発車しません。
二人は、動き出すまでずっと手を振り続けました。
お孫さんたちは、 「またお墓参りに行こうね」と言っているそうです。

     *     *     *     *

このお話が新聞に掲載された直後のことです。 「ちょっと教えていただけますか」 と豊橋鉄道の方から電話がありました。
「場所からしてその者は、関連会社の豊鉄バスの運転手だと思います。
私は本社で社員教育をしているのですが、
お手本になるような社員なので褒めてやりたいのです。
勤務の日程表を調べればわかるので、
何月何日の何時ごろそのお客様が乗車されたのかを
投稿された方に聞いていただけませんか」 というものでした。 早速、投稿をいただいた津島市の古屋さんに了解をいただき、
古屋さんの電話番号を先方にお伝えしました。 さて、数日後のこと。改めて豊橋鉄道さんから報告の電話をいただきました。
勤務記録から、その運転手さんが誰なのかが判明したとのこと。
そして、全社員にお手本となるべき行動だと社内報に掲載して褒めることにしたそうです。
何だか嬉しくて、その運転手さんの声が聞きたくなりました。
そこで、休憩時間を見計らって電話をしました。
お名前をKさんと言いました。Kさんは、少し照れながらも、 「実は、似たようなことが以前にもあって、これが三度目なんですよ」 とおっしゃいました。 子ども同士で「僕が押す」とけんかになることもあるといいます。
子どもにとっては、よほど魅力的なボタンらしい。
そんな経験から安全運転に支障のない範囲で行ったことだとのこと。
さらに、こんなお話も聞かせていただけました。
シルバーカーを持ったお年寄りが乗車する際、
手伝いたいけれど運転席を離れるわけにはいきません。
そんな時、ほかの乗客が手を貸してくださることがあり、 「ご協力ありがとうございます」 とアナウンスするそうです。 高校生がお年寄りに席を譲るのが見えた時にも、 「ありがとうございました」 と言うようにしているとのこと。快適にとはいかないけれど、
せめて気持ちよくお客様に乗っていただけるように
心掛けているとおっしゃいました。
Kさんのいずれの一言も、ささいな何気ない言葉かもしれません。 でも、それは大きな一言なのです。
なぜなら、マニュアルにはないものだからです。
「お客様のために何ができるだろうか」と、
普段から考えているからこそ口にできるもの。
それこそが、マニュアルを超えたサービスなのです。 接客業だけでなく、すべての業種で働く者にとって、
このエピソードは無言の提議をされている気がしました。 「あなたにできることは、何ですか?」 と。 さらに、後日談があります。 バス会社からお二人のお孫さんに豊鉄バスのオリジナルのおもちゃ、
「チョロQ」がプレゼントされました。
数日後、その二人から一通のはがきがKさんに届きました。
そこには「チョロQバス」が絵の具で描かれてあったそうです。
今回、Kさんに、ぜひにとお願いしましたが、
名前を出すことは固辞されました。
その言葉がいつまでも心に残っています。
「私だけではありませんから」

中日新聞・朝刊平成20年1月27日、2月24日掲載より