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第1407号 書下ろしショートストーリー『きなこのクリスマス その2』志賀内泰弘

智久は、何食わぬ顔つきで答えた。 「先生、佐藤さんは『きなこ』が好きなんです。
今日の給食のデザート、きな粉のワラビもちだったでしょ。
僕も大好きでさ。それで愛情込めて『きなこ』って呼んだんだ」

先生は、笑って答えた。 「おお、そうか。俺もきなこ大好きだぞ」 智久の言葉を信じた様子だった。先生が言う。 「正月のお餅も、きなこが好きだな」 成績が良い人間の言うことを大人はどうして信じてしまうのだろう。
佐藤さんは、顔を真っ赤にしてうつむいた。
あだ名なんて、たわいもないことから付けられるものだ。

その日から、佐藤さんはクラスのみんなから
「きなこ」と呼ばれるようになった。
なにしろ、先生も公認だ。 「おい! きなこ」 と呼んでも、先生はまさか悪口だとは思わない。
ただ、心の中で「汚ねえ子」と呟かれているとは、想像もつかないだろう。
最初は、「きなこ」と呼ぶだけだったものが、
1か月、2か月と経つうちにいじめへと発展していった。
佐藤さんの筆箱が失くなったり、机の中にベタベタの雑巾が入っていたり。
給食の牛乳パックに付いているストローが、
佐藤さんのものだけ取られて無くなっていることもあった。
それはまだ序の口。
6年生になる頃には、背中から牛乳を流し込まれたこともある。
帰ろうと思って下駄箱から靴を取り出そうとしたら、
中に給食の残飯が詰め込まれていたこともあった。 全部、主犯は智久だった。でも、だれも止めようとしない。
クラスの全員が智久に従い共犯になった。そう・・・誠も。 誠だって、そんなことをしたくはなかった。
ある日のこと。 校庭の花壇で捕まえた毛虫をきなこの給食のおかずに
混ぜてやろうという話になった。誠は、
「もう付いていけない。このままじゃダメだ」
と、勇気を出して智久に言った。 「それはやり過ぎだと思うよ・・・」 もちろん、小声で。
一番に仲が良いはずの智久の顔が、突然、ひきつるのが見えた。
そして、とてつもなく低く、身震いするような太い声で言った。 「なんだ、マコト。お前も、いじめられたいのか」 誠は凍りついた。3秒間ほどの沈黙の後、ちょっとはしゃいで言った。 「うそうそ、そんなわけないじゃん」 「だよな~マコトは仲間だもんな」 他のクラスで、良く耳にした。いじめに遭っている子をかばったら、
その子もいじめられるようになったと言う話を。
誠は、怖かった。いけないとは思っても、抵抗できない。
自分がかわいくて、二度と智久に逆らわなくなった。
でも、「こじゃぁダメだ」という思いが、誠の心を暗くさせた。
幼い頃から、いつもお父さんに言われている言葉が、
頭の中でグルグル回った。 「自分に嘘をつくな」 「うん、大丈夫だよ」 と胸を張って答えたかった。でも、今は・・・いじめに加担している。
自分に嘘をついている気がした。だから、心がモヤモヤして苦しいのだ。
それだけではない。お父さんに「うそ」までついている。
誠は、どんどん自分が嫌な奴になっていくのが怖かった。 「なんとかしなくちゃ」 誠は、どうしていいのかわからなくなっていた。 心の中で、呟いた。 (なんとかしなくちゃ、なんとかしなくちゃ) 佐藤美雪は、クリスマスが大嫌いだった。 クラスのみんなは、それぞれに友達同士でクリスマス会をするらしい。 家では、お父さん、お母さんと一緒にイブの夜、パーティをするらしい。 翌朝には、サンタさんが持って来てくれたプレゼントが、枕元に置いてあるらしい。
たいていの子は、事前にお父さんやお母さんに欲しい物を頼んでおくと、
それをサンタさんに伝えてくれて、願いがかなうらしい。 美雪のアパートにも、ちゃんとサンタさんは来てくれる。 でも、願いがかなったことは一度もない。 去年は、キティちゃんのハンカチだった。 一昨年は、やっぱりキャラクターのボールペンだった。 その前は・・・。 貧しい家の子には、サンタさんも、それなりの物しか持って来ないらしい。 3年生の時、 「お母さん、友達はみんな、ゲーム機とかもらっているのに、
なんでサンタさんは私の頼みを聞いてくれないの? 私が、悪い子だから?」 そう言うと、お母さんはとても悲しそうな顔をした。
4年生になった時、サンタさんは空想の世界の人で、
実際にはお父さんがサンタクロースなのだということを知った。
仲良しのエッチャンに教えられた時にはびっくりしたが、すぐに納得できた。 うちが貧乏だということを知っていたから・・・。 美雪は、小学校の卒業式を指折り数えていた。 でも、まだ、指の数には程遠い。年が明けて、三学期が終わるまで3か月ある。 美雪が、「早く卒業したい」と願い初めて、もう一年半以上にもなる。 早く、このクラスから逃れたい。 どうして、こんなことになってしまったのだろう。 自分でもよくわからない。
5年生になってすぐの給食の時間に牛乳を飲んでいて、むせ返ってしまった。 その日から、美雪はクラスのみんなから「きなこ」と呼ばれるようになった。
「汚ねえ子」という意味らしい。さらに、毎日のように、いじめに遭った。
給食のおかずに、消しゴムの粉やゴミが入っていることは当たり前になった。
靴を隠されて、家に裸足で帰ったこともある。それも、土砂降りの雨の日に。
それでも頑張った。先生にも、お母さんにも言わなかった。 「チクッた」と、さらにいじめがひどくなるのが怖かった。 いや、何より、お母さんを悲しませたくなかったのだ。
お母さんは、美雪が幼稚園の時に、お父さんと離婚した。
お酒を飲むとお母さんを何度もけったり殴ったりした。
美雪も、髪の毛を引っ張られて叩かれたことがある。
お母さんに連れられて、何度も知らない町に引っ越した。
お母さんは、いくつもの仕事を掛け持ちして働いた。
でも、美雪が家に帰る時間には、必ず家にいてくれた。
そして、一緒におやつを食べる。 「今日も遅くなるけど、ごめんね」 と言い、夕ご飯の支度をして、お弁当工場へと出掛ける。

忙しい時には、帰りが夜中の3時になることもある。
その代わり、朝は起きれないので、美雪は自分でパンを焼いて食べて学校へ行く。
一生懸命に育ててくれているのが、子どもながらにもわかった。
寂しい思いをさせまいとして、いつも笑顔でいてくれる。
そんな母親に、悲しい思いをさせたくない。
だから・・・黙っていた。いじめに遭っているなんて聞いたら、
どんなに悲しませることか。小野田先生にも言えやしない。
そんなことをしたら、お母さんに伝わるからだ。 美雪は、ただただ耐えた。 後少し、後少し・・・。 クリスマスが終わって、お正月が来て、三学期が終われば卒業式だ。 中学になったら、今度はいじめられないように努力しよう。 とにかく大人しくしていよう。目立たないようにしよう。
間違っても、牛乳を拭き出したりはしない。
人に迷惑をかけないようにして、ひっそりと学校へ行く。やり直すのだ。 だって、4年生まではなんでもなかった。
友達もいたし、クリスマスには、友達の家に呼ばれてパーティもした。
今は、友達が一人もいない。でも、中学に入っても、友達なんかいらない。
そんなことより、どうしたらいじめられずに済むかだ。ただ、それだけ。

《続きは明日》