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第1406号 【クリスマス特別号】『きなこのクリスマス その1』志賀内泰弘

誠(まこと)は、小学6年生。

お父さんは、トラックのドライバーをしている。
長距離が専門で、家を留守にすることが多い。
土日も関係なく仕事をしているのであまり遊んでもらえないが、
誠はお父さんが大好きだった。

一番の理由は「勉強しろ」と言わないこと。
その代わり、弱音や愚痴を言うとものすごく叱られた。
口癖は、「自分に嘘をつくな」ということだった。

以前、夕飯の時に一度訊いたことがある。
「それって、どういう意味?」
と。すると、お父さんは飲みかけていたビールのコップを
テーブルに置いて、急に真顔になって教えてくれた。

「自分に嘘をついた時は、なんだか心の中がモヤモヤするんだ。
誠にこう言っているお父さんもな、実はそういう気分になることがある。
自分に嘘をつくと、その時はいいけど、だんだん苦しくなる。
いいか、誠。自分に嘘をつくような人間にだけは、なっちゃいかんぞ」

そう言うと、再び、グイッとビールを飲み干した。
3、4年生の頃までは、それがどんな意味なのかわからなかったが、
最近になって、なんとなくわかるようになってきた。

誠は、長いこと、悩んでいた。いや、悩むというのは正しくない。
後ろめたさが募り、そのことを考えると、
胸が何かで突き刺されるように苦しいのだ。
どうしていいのか、わからない。

今日は、12月24日。
クリスマス・イブで、二学期の終業式だ。
年が明けて4月になれば地元の中学に進学することになっている。
3つの小学校の学区から、一つの中学校の学区ができている。

中学に入ると、当然、仲良しのグループもバラバラになる可能性が高い。
誠は、新しいクラスに馴染めるかどうかが、今から不安でならなかった。
(いじめられないように気を付けなくちゃ)
誠が通う小学校では、2年生から3年生に、4年生から5年生になる時にクラス替えがある。
その度に、仲の良い友達と別れ別れになるという寂しさとともに、
「新しい友達ができるだろうか」という不安でいっぱいになった。

でも、今までは大丈夫だった。5年生になった時、席順で前の席になった智久と、
すぐに打ち解けた。応援するJ1のチームが同じで盛り上がったのだ。
その智久の、一年生の時からの友達ともすぐに仲良くなった。
それだけではなく、朝礼前には他のいくつかの仲良しグループとも
一緒にサッカーをしている。

智久は、いい奴だ。忘れ物をすれば、貸してくれるし、
クラスで一番勉強ができるので宿題だって手伝ってくれる。
でも、一つだけ、戸惑うことがあった。
同じクラスの佐藤美雪さんをいじめるのだ。
佐藤さんとは、1、2年生の時に同じクラスだった。
家も近いので、毎朝、分団を組んでの登校が一緒だった。
自然と、母親同士も仲良くなり、風邪をひいた時には、
学校の連絡ノートなどを家まで持って行ったりしていた。

ところが、佐藤さんにとっての悲劇は、5年生になって
一週間も経たないある日の給食の時間に訪れた。
佐藤さんが牛乳を飲んでいる時、誰かが大声でブレイク中の芸人のギャグをした。
それにつられて、みんなが大笑い。佐藤さんも笑った。

だが、牛乳が息の方に入ってしまったらしく、ゴボゴボッとむせかえった。
それが、前の席の優樹菜の髪にかかった。
「キャアー!」
みんなが振り返る。佐藤さんの机の上にも、牛乳が飛び散っている。
佐藤さんは、ハンカチを取り出して拭いてあげようとした。
「なにするのよ! 汚いわねえ~」
佐藤さんが申し訳なさそうにうつむいた。その時、誰かが言った。
「汚ねえなあ~」
智久が、おどけて言った。
「汚ねえ、きな粉!」

その日の給食には、きな粉にまぶしたワラビもちのデザートが付いていた。
きな粉に牛乳がかかり、ドロドロになっていた。
そのプレートを指さし、智久がまた言った。
「汚ねえ、きな粉!」
シャレのギャグのつもりだ。何度も、大声で繰り返した。
「汚ねえ、きな粉! 汚ねえ、きな粉! 汚ねえ、きな粉!」

その日の午後の理科の実験の時間。
備品係りで保管室からビーカーを運んできた佐藤さんに向かって、智久が、
「きなこ!ビーカー割るなよ」
と言った。それを何気なく耳にした担任の小野田先生が、
「なんだ? きなこって」
と、智久を咎めるような口調で言った。
智久は、何食わぬ顔つきで答えた。
「先生、佐藤さんは『きなこ』が好きなんです。
今日の給食のデザート、きな粉のワラビもちだったでしょ。
僕も大好きでさ。それで愛情込めて『きなこ』って呼んだんだ」

《続きは明日》