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第1263号 ちょっといい話『ショートストーリー「見ていてくれる人がいる」』志賀内泰弘

ある出版社さんの依頼で、ショートストーリーを書きました。 ある生命保険会社の生保レディさんが主人公のものをという設定条件でした。 生保レディさん向けの、研修リーフに使用したいとのこと。 そこで、頑張っている「働くお母さんたち」へのメッセージを込めて、 こんな短編小説を書かせていただきました。

   *   *   *   *

「見ていてくれる人がいる」志賀内泰弘

あれは、今から10年ほど前のことです。 当時私は、小学校1年の娘・彩華と、 保育園の息子・健太を育てながら生保の仕事をしていました。

下の子を産んだ後、夫が交通事故で亡くなってしまい、シングルになってしまいました。 明日への気力も無くなって茫然としましたが、二人の幼い子どもを育てなければなりません。 両親を二人とも早くに亡くしていたため、頼る人もありません。 学生時代の友人に勧められて始めたのが、この仕事でした。

とにかく「生きる」ために必死で働きました。 でも、誰も契約してくれません。話さえ聞いてくれないのです。 電話で友人に「生命保険の・・・」と言うだけで、嫌がられました。 人の紹介もなく、飛び込みで各家庭を回ったこともあります。 もちろん、1件も成約に至りませんでした。 お婆さんに、押し売りと勘違いされて追い返された時には涙が出ました。

それでも、休まずに毎朝、営業所へ出勤します。 子供たちは、私の気持ちを知ってか知らずか。 なかなかパジャマを着替えてくれません。 トイレに行かせたり、朝ご飯を食べさせるだけでヘトヘトです。

先に娘を集団登校の場所へ送り出し、 30分後に息子を保育園に自転車で連れて行きます。 その時、一緒にアニメの歌を歌うのが一日のうちで、一番幸せな時間です。

8時30分。ギリギリで保育園に滑り込みます。 私と同じくらいの歳の先生が迎えくれます。 まだ、結婚はされていないとのこと。

いつも「ご苦労様」と満面の笑顔で息子を受け取ってくれます。 「ああ、この人はきっと幸せなんだろうな~。  私の苦労なんて理解できないだろうなぁ」 と嫉妬することもあります。 でも「いけない、いけない。人をそんなふうに見ちゃ」と首を横に振って 「よろしくお願いします!」と言い、駅まで自転車を走らせます。

そんなある日のことでした。 いつもように息子を預けて去ろうとすると、 その先生に「ちょっといいでしょうか・・・」と呼び止められたのです。 ちょっと嫌な予感がしました。昨日、息子が何かイタズラでもしたのかなと。 今までにも何度か、女の子の友達を泣かせたことがあるからです。 先生は少しうつむき加減で言いました。

「あのう・・・今度、私、結婚することになったんです」 予想外の言葉に、私は、 「ああ、そうですか・・・それはおめでとうございます」 と口にしていました。 「それで、健太君のお母さんが保険の仕事をしていらっしゃることを思い出したんです。  ぜひ、相談に乗っていただけないでしょうか」 「え?」 「私、結婚しても保育園で働き続けるつもりです。子供が大好きなんです。  ずっと健太くんお母さんを見ていて、ズコイな~て思っていました。  憧れなんです。二人もお子さんを育てながら頑張っていらっしゃって・・・。  私、お母さんみたいな母親になりたいんです。  一生懸命に働いている背中を子どもに見せられるように」 「・・・」 「だから、だから、結婚したらカレと一緒に、  健太君のお母さんの保険に入らせてもらおうって、ずっと決めていたんです」 私はその日、初めて営業所に遅刻してしまいした。 その場で泣き崩れて、電車に遅れてしまったのです。 でも、その先生のおかげで、今の仕事を続けていられるのだと思っています。 頑張っていれば、きっと誰かが「見ていてくれる」のだと信じて。