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第804号 ココロのメルマガ小説『お婆ちゃんの金魚 前編』志賀内泰弘

ドラッグユタカでは、毎年、夏休みに入ると子供向けのイベントを
いろいろと企画している。

その一番の人気は、金魚すくいだ。朝から、子どもたちが順番を競ってやってくる。
昔は、縁日の定番だった。

「5匹すくった!」
「わたしは7匹」

とみんなで自慢し合う。
でも最近は、金魚すくいをするのは初めて、という子供も多い。
ほとんどの子が、すぐに紙が破けてしまう。

「あ~ザンネンだったね~。でも大丈夫だよ、3匹あげるからね」

と言い、アルバイトのリョウは小学1年生くらいの男の子に、
金魚をビニール袋に入れて渡した。すぐ近くにいた父親が、
「ペコリ」とリョウの方を向いてお辞儀をした。

その時だった。すぐ後ろにいたお婆さんが、

「ポイちょうだい」

と一番前に出てきた。ポイとは、金魚をすくう、あの網のことだ。
リヨウは、ポイを「はいっ」と言って渡した。
てっきり、その後ろにいた女の子のお婆ちゃんだと思ったら、
お婆ちゃんが自分で金魚をすくい出した。

「あ~お婆さん、すみませんが、コレお子さん限定のイベントなんですよ」

お婆さんはじっとして動かなくなり、
しゃがんだままリョウを見上げた。なんとも悲しげな目だった。

「できんの・・・?」

そう言われて、言葉に詰まった。しかし、これは子供向けの無料のイベントだ。
10人くらいの列ができており、後ろの方では付き添いのお母さんが
「何かあったのかしら・・・」という顔つきでこっちを見ている。

「ごめんね、お婆ちゃん」

そこへ店長がやって来た。

「あ、山岸のお婆ちゃん」
「・・・」
「どうしたの?リョウ君」
「いえ、このお婆さんが金魚すくいをやりたいって・・・」

リョウは困ったときに、グッドタイミングで助け舟が現れたと思った。

「ああ、お婆ちゃん、今年も来てくれたんだね、ありがとう。
 リョウ君、お婆ちゃんにもやってもらってよ」
「でも、お子さん限定の・・・」
「いいんだよ、特別、特別!」

そう言われて、山岸と呼ばれたお婆ちゃんは嬉々として水面に目を向けた。
ビニールプールの中には、色とりどりの金魚が太陽の陽を浴びてキラキラと輝いてみえた。

しかし・・・。お婆ちゃんのポイの紙は、すぐに破れてしまった。
ほとんど輪っかだけになったポイで、何度もすくおうとするお婆ちゃん。

「お婆ちゃんに、残念賞の金魚あげてよ、リョウ君」
「あ、はい」

リョウは、アルミのカップで、金魚を3匹すくうとビニール袋の中に水と一緒に流し込んだ。

「わたしは、1匹でいいんよ」
「お婆ちゃん、いいからいいから」
「ううん、1匹でいい」

せっかく好意で入れてやったのに、とリョウは憮然とした。
すると店長が、横から、

「リョウ、元気そうなヤツを1匹だけ入れてやってくれんか」

と言う。

「真っ赤なヤツにしてくれんかな」

リヨウは、仕方なく、3匹ともプールに戻し、
大きめのスイスイ泳いでいる真っ赤な金魚をすくった。
お婆ちゃんは、「ありがとう」こそ言わなかったが、
満面の笑顔で帰って行った。
 
金魚すくいのイベントが終わり、
後片付けをしていると店長がやって来た。

「リョウ、さっきはスマンかったな」
「あ、いえ・・・でもいいんですか・・・子供限定のイベントに
 大人を参加させたら、文句がでませんか」
「そんなことはいいんだよ。子供向けと決めたのは、うちの店なんだから。
 お客様に喜んでいただけたらそれでいい。
 それにね・・・あのお婆ちゃんの場合はさ、特別なんだよ」
「特別って・・・」
「片づけが終わったら、飲みに行こうか」
「え?」
「そこで教えてやるよ・・・山岸のお婆ちゃんのこと」

リョウは意味深な店長の言葉に首を傾げながら、駐車場の掃除を始めた。

《続きは来週の木曜日号で》

※この物語は、岐阜県大垣市に本社を置く(株)ユタカファーマシーが
展開するドラッグユタカで実際にあったエピソードを元に小説化したものです。