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第1587号 ちょっといい話 『新刊好評!ジーンと来る伝説のオルゴール・ショップの話』志賀内泰弘

新刊が、おかげさまで好評です。
「眠る前に5分で読める、一日一話でほっとする話」イースト・プレス社。
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そして12年間にわたり、「プチ紳士・プチ淑女を探せ!」運動の
月刊紙「プチ紳士からの手紙」のコーナー「心にビタミンいい話」に、
「素晴らしい人たち」の「いい話」を連載してきました。

今回、それが1冊の本になりました。小さな小さな「あったかい」物語が40本。
その中から、先日に引き続き、もう1本、大好きな「いい話」をお届けしましょう。

*   *   *   *

「伝説のオルゴール・ショップ」

なにげなく聞いていたラジオから、思い出の曲が流れてきて、
胸が切なくなったり、涙があふれてくることがあります。
つらくてたまらなかった「あのとき」、
どん底で先が見えなくなっていた「あのとき」に、
ふと口ずさんでいた「あの歌」です。
名鉄百貨店の本館8階に、いまでは伝説となったオルゴール・ショップがありました。
店長は山森万睦さん。オルゴールの販売会社を営み、名鉄百貨店に入店していました。

いまから10年ほど前の、ある日のことです。
七十歳くらいの男性が来店され、
「『すみれの花咲く頃』を探しているのですが、こちらにありませんか?」
と、たずねました。

名古屋のすべてのデパートをまわったけれど、見つからなかったそうです。
疲れはてて、最後にたどり着いたのが、名鉄百貨店でした。
なんと!たまたま店に1台在庫がありました。
喜んでいただけるものと思ったら、

「48台いただきたいのです」

と、おっしゃいます。
なにやらいわくありげな様子が気になり、
山森さんは話を詳しくうかがうことにしました。
お客様は、長年、連れ添った奥さまが亡くなり、
葬儀を終えて間もないとのことでした。

奥さまは宝塚歌劇団の大ファンだったそうです。
生前、ご夫婦ではもちろん、親戚や友だちと一緒に、
何度も舞台を見に出かけていました。
香典返しを考えたとき、思い当たったのが「思い出」でした。
一緒に舞台を観た人たちと奥さまの思い出を共有したい。

そこで、宝塚歌劇団の愛唱歌の「すみれの花咲く頃」が
流れるオルゴールを贈ろうと心に決めたそうです。
いや、それ以外には、考えられないとまでおっしゃいました。

しかし、オルゴールの業界の常識からすると、
とても引き受けられない依頼でした。
なぜなら、ひとつの曲の在庫が48台も、
問屋やメーカーに残っているものではないからです。

もし、メーカーに新たに注文して制作するにしても、
その発注の最低ロットは100台。
全部を買い取るのが条件になります。
なにより、四十九日の法要まで2週間しかありません。
いまから制作していては間に合わないことはあきらかでした。
つまり、不可能と思われる依頼だったのです。
それでも山森さんは、「なんとかしてさしあげたい」と思い、
その日はいったん、お客様にお帰りいただきました。

山森さんは、不可能を可能にすべく、すぐさま動きました。
当時、全国の観光地などにオルゴール館が36軒ありました。
その一軒ずつに電話をかけ、「すみれの花咲く頃」の在庫があるかどうかたずねました。
すると、そのうち10軒のオルゴール館で、合計48台の在庫を確認することができました。

しかし、たいへんなのは、これからでした。
オルゴールの音色を奏でる機械の部分を「ムーブメント」と呼びます。
山森さんは、そのムーブメントだけを手に入れたいわけです。
箱(「響体」と呼びます)も含めた製品をそのまま買い取ったのでは、
途方もない金額になってしまうからです(なかには高価な「響体」もありました)。

そこで、在庫のあったオルゴール館に事情を説明し、お願いしました。
商品からムーブメントの部分だけを取りはずし、
その商品を仕入れた問屋さんに、他の曲のムーブメントと交換してもらうように、と。

そのあと、問屋さんに返品されたムーブメントを山森さんが買い取るのです。
オルゴール館にとっては、なにも得することはありません。ただ手間ひまがかかるだけです。
それでも、ひとりひとりに事情を話し、30台分のムーブメントが確保できました。

では、残りはというと……8台についてはムーブメントの部分だけ取り外して定価で買い取り、
10台については響体ごと買い取ってムーブメントだけを取り外しました。
そして、お客様が希望される5種類の響体に、ムーブメントを取りつけました。
香典の額や相手の好みに応じて、響体のデザインを変えたため、5種類にもなったそうです。
小売業である百貨店のショップが、同じ小売から商品を回してもらうこと。

そして、少なくとも3か月以上かかる納品を、わずか2週間で仕上げたこと。
ふたつの点で、通常の商いではありえないことを実行したのです。
「それでは赤字になりませんか?」
とそぼくな質問を山森さんにぶつけました。
すると……、
「もちろん私も商人なので、損得勘定はします。
しかし、お客様の曲への思い入れを聞いてしまうと、
願いをかなえてさしあげたいという気持ちが勝ってしまうのです。
1円でも黒字になればいい。なんとかしたい、と」

商品がすべてそろった段階で、響体の中に、
ご夫婦からのメッセージカードを入れて包装するように頼まれました。
その挨拶文の末尾に、こんな言葉が添えられており、山森さんは驚きました。

「このオルゴールのムーブメントは、名鉄百貨店の山森さんのご好意で、
日本じゅうの在庫の中から集めて、準備してくださったものです」
山森さんは、恐縮して辞退しました。
「それでも」とお客様のたっての願いで、
そのままカードを封入することになったそうです。

「働く」ということは、どういうことか。
物を売るというのは、
単なるお金との交換ではないということを学ばされるお話です。

*   *   *   *

いかがでしたでしょうか?
実は、もう2つ、心に響くオルゴールにまつわる「いい話」が収められています。
続きは、ぜひ、本書にてお読みいただけたら幸いです。
ただ、胸が熱くなるだけではない。
明日への力が湧いてくるお話です。

「おやすみ前のショート・ストーリー。一日の終わりに幸せな気持ちをくれる、40の物語」
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