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第1679号 ほろほろ通信『見知らぬ通夜客』志賀内泰弘

二年前。名古屋市にお住まいの紅谷仁美さん(66)のお母さんが亡くなられた。その通夜の席での出来事だそうだ。まったく見覚えのない四十代の女性が焼香に来られた。
お悔やみのあいさつののち「ここのおばあちゃんは、うちの子の命の恩人なのです」とおっしゃる。何のことかときょとんとしていると、こんな話を始めた。

十数年も前の話だという。その女性の幼稚園に通う息子さんが用水路に落ちて流されてしまった。近くで畑仕事をしていた紅谷さんのご両親が、子どもの声を聞きつけて駆けつけた。
石につかまって泣いている子どもを見つけ、二人で助け上げた。前日までの大雨で増水しており、わずか数メートル先のトンネルに危うく吸い込まれるところだった。

十年前、お父さんが亡くなられた時にも、大きくなった当の息子さんと一緒に葬儀に参列されたという。息子さんは勤めに出ているので、今回は何はともあれ一人で通夜に駆けつけられたとのことだった。紅谷さんは両親から一度もそんな人助けの話は聞いたことがなく、ただただ驚いた。

両親が亡くなると、古里が遠くなった気がして寂しくなってしまう。知る人も少なくなっていく。そんな中、両親のこといつまでも覚えていてくれて、通夜にまで参列してもらったことで悲しみの中にも心が安らぐ思いがした。
「千の風になって」が多くの人々の共感を呼んでいる。曲は「死んでなんかいません」と歌う。まさしく、千の風になって人の心の中に生き続けていたのだ。
お母さんは生前、入浴サービスのボランティアをしておられたという。紅谷さんも今、老人ホームでボランティアをしている。

<中日新聞 掲載2008年2月10日>