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第1675号 ほろほろ通信『ピンポーン』志賀内泰弘

津島市の古屋きみ子さん(61)が、二人のお孫さんとお墓参りに出かけた時の話だ。豊橋まで電車に乗り、そこからさらにバスに乗り換える。八歳と六歳の女の子にとっては、ちょっとした旅である。

帰りのバスでお孫さんたちは運転手さんの真後ろに陣取った。次の停留所がアナウンスされた。古屋さんに尋ねる。「押してもいい?」と。「だめよ」と答えるが、よほど降車ボタンが気に入ったらしい。アナウンスのたびに何度も二人で「押してもいい?」と聞く。

その様子をを聞いていた運転手さんが古屋さんに「どこまで行かれますか」と尋ねた。降りる場所がわからないのではないかと気遣ってくれたようだった。「終点まで行きます」と返事をした。

やがて終点を告げる録音のアナウンスが車内に流れた。お孫さんたちはボタンを押さなくてもよいことがわかり、がっかりしてしまった。その時である。マイクを通して運転手さんの声が聞こえた。
「ボタン押してもいいよ!」
上の子は古屋さんの顔をのぞき込むようにして「いいの?」と聞いた。「うん」と言うとすかさずボタンを押した。「ピンポーン」。にっこりとして本当にうれしそうだった。

またまた運転手さんの声が車内に流れた。
「もう一人の子も押してもいいよ」
下の子も喜んで「ピンポーン」
乗客全員がその様子を見ていた。バスを降りると二人とも大きな声で運転手さんに「ありがとう」と言って手を振った。

終点なので時間が来るまでバスはなかなか発車しない。動き出すまで手を振り続けた。お孫さんたちは「またお墓参りに行こうね」と言っている。

<中日新聞掲載2008年1月27日>