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第1668号 ほろほろ通信『私は夢の中にいたいんだ』志賀内泰弘

名古屋市名東区の中根豊さん(67)はタクシーの運転手として勤続23年。
この春、退職することになったが忘れられない人との出会いがあるという。

約十年前のこと。お得意様だった中小企業の社長Aさんが、重度の脳梗塞になった。
一時は寝たきりの状態だったが、懸命なリハビリのかいあって
車いすで日常生活ができるまでになり、自宅から会社までの通勤を、
たびたび中根さんが担当し介助した。

ある日、そのAさんがこんな話を始めた。
「私はいつも寝ていたいんだよ。私は夢の中にいたいんだ」
それを聞き、中根さんは胸が痛んだ。Aさんの奥さんから耳にしたことがあった。
Aさんは小さな漁村の出身。大柄な体を生かし、学生時代は野球に打ち込んだ。
その後、社会人野球で活躍。プロにはなれなかったものの「スター」と
呼ばれるほど三重県では有名なピッチャーだったという。
それが今では体が不自由になり、思うように動けなくてつらい。
「夢を見たい」は、心の叫びなのだと。

続けて「夢の中では、子どもたちと遊園地で遊んだり、
仲間と楽しく酒を飲んだりする自分がいる。もちろん野球も」と話す。
かなわぬ現実から離れ、夢の中では何でも自由にできる。
「ああ、夢が現実であってほしい」
中根さんも若い頃、野球をやっていたという。おかげで健康だが
「あの社長の言葉を胸に刻み、特に体の不自由な人への気配りを心掛けるようになりました」
その後、Aさんは奥さんの実家の東北へ転居されたと聞いたが「東日本大震災後、安否が不明です」
貴重な教えへの感謝とともに、心から無事を祈っている。

<中日新聞掲載 2018年4月22日>