たくさんのいい話をたくさんの人に読んでもらいたい・届けたい・広げたい【運営】プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動

無料メールマガジン
いい話を読む
いい話を投稿する
みなさんの感想
いい話グッズ購入

いい話を読む

第1653号 ほろほろ通信『温かなまなざしの乗客に見守られて』志賀内泰弘

豊田市の石川早苗さん(69)は、長年、そろばん塾を営んでいるが、
実務に対応するため電卓も教えている。
昨年の11月末、生徒たち十数人を引率して名古屋まで電卓競技大会に出掛けた。
過去最高の入賞者数となり、上機嫌での帰り道の出来事。

生徒の一人、中学二年のH君が名鉄名古屋駅のホームで「携帯電話がない」と漏らした。
そこへ電車が入って来た。とりあえず乗り込み「よく思い出して」と言い、捜させた。
かばん、紙袋、制服のポケット…。見つからず焦る。

石川さんは「よく考えて!」「最後にどこで使ったの?」
とつい声が荒くなってしまった。大会の会場に照会したが「ない」とのこと。
大騒ぎの様子を周りの乗客が心配そうにチラチラと見ているのが分かった。

すぐ近くの乗客が「誰かが電話をかけてみたら」とアドバイスしてくれた。
友達がかけてみたが、鳴らない。マナーモードに設定してあるためか。
それとも落としたのか。みんなが、あきらめかけたところで、
「あった!」というH君の声。かばんの数あるポケットの1つに入っていたのだ。
その瞬間、乗客が一斉にこちらを振り向き、ほっとした表情の笑顔が広がった。
「よかったよかった」と口々にうなずき、笑い声も聞こえてきた。
「よかったね、どうなるかと思ったよ」と声を掛けてくれた人も。
石川さんは「お騒がせしました」と何度も頭を下げた。

「みなさんが心配し、そして喜んでくれた。ただそれだけの話。
でも、それがうれしくてなりません。
温かなまなざしで見守ってくださり、
ありがとうございました」
と石川さんは話す。

<中日新聞掲載2018年3月18日>