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第1634号 ほろほろ通信『こんなうれしいことはない』志賀内泰弘

以前、県内でコンビニを経営していた栗原尚美さん(82)には、
忘れられない思い出があるという。二十五年前の出来事。

当時、店では万引きの常襲に悩まされていた。
防犯カメラの画像を見ると、高校生の様子。
ある日、栗原さん自ら客を装って店内で張り込んでいると、
その少年が現れた。彼の乗る自転車を確認すると、
進学校として有名な高校のステッカーが貼ってある。

「なぜ、優秀な子が」とショックを受けた。
後でビデオを再生すると、実に巧妙に万引きをしている様子が写っていた。

翌日、その高校へ電話すると先生が飛んで来られた。
ビデオを見て「うちの一年生です」と。すぐに名前まで判明した。
翌日、少年は父親に伴われて謝りに来た。
当人の申告によれば、総額は一万円に及ぶという。
初犯ではない。何より計画的であることから、栗原さんは厳しくしかった。

父親から弁償の申し出があった。
だが、栗原さんは少年に向けてこう言って断った。

「今、そのお金を受け取ったら、この件はこれでおしまいになってしまう。
私はお金が惜しくて学校へ通報したのではない。
君は罪の意識がなくてしたのだろうが、
悪の道への転落の一歩を踏み出したことに気付いてほしい。
弁償は将来、自分で汗して得た報酬で払ってもらおう」と。

月日が流れ、そんな話も記憶が薄れていたある日とのこと。

「三年前、ご迷惑をおかけしました。僕、大学生になりました。
アルバイトをして初めてもらった給料です。
あの時のお金を支払わせてください」

そう言い、店に現れた青年は白い封筒を差し出した。
栗原さんは感激で涙をこらえるのが精いっぱい。

「約束を守ってくれてありがとう。こんなうれしいことはない。
そして入学おめでとう。これからも頑張って」と言うと、
「はい、失礼します」と笑顔で立ち去ったという。

<中日新聞掲載 2018年02月11日>