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第1620号 ほろほろ通信『奥さん、どうされてますか?』志賀内泰弘

名古屋市緑区の石川清さん(72)は、
約二十年間にわたって病気の奥さんを看病・介護してきた。
それは言葉にできないほど壮絶だったという。

例えばトイレの介助。その数は毎夜十五、六回にも及んだ。
一番つらいのは病気の本人だが、石川さん自身も
「頑張った」と言い切れるほど尽くした。
心が折れそうになり「共に命を絶とう」と考えたこともあるという。

共倒れしないように、うまく気分転換をはかるようにした。
その一番は、喫茶店巡りだ。毎日のように奥さんを車に乗せて、
車いすのまま入りやすい近隣の喫茶店を探した。
それが功を奏してか、いつも奥さんは
「ありがとう」「申し訳ない」を繰り返し、心穏やかだったという。

さて、つい最近のことだ。
家の近くで、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて
散歩する女性を見掛けるようになった。
二、三年くらい前に近隣にできた分譲住宅に引っ越して来た人らしい。
なんとなくお辞儀をしてすれ違っていたが、
三度目くらいの際、先方から声を掛けられた。

「九年くらい前、私が学生の頃、A喫茶店でアルバイトをしていました。
その時、ご夫婦で来店されていたのを覚えていますよ。
車いすの奥さん、どうされてますか?」
石川さんが、
「実は最近、亡くなりました…」と答えると、
「え!」と驚かれた。

「あの頃は、日々必死で精いっぱい。
こちらは店員さんの顔を覚える余裕もありません。
でも、彼女が私たち夫婦のことを覚えていて
くれたことがうれしくてなりません。
つらくても、見ていてくれる人がいる。
世の中捨てたもんじゃないなあ、と思います」
と石川さんは話す。

<中日新聞掲載 2018年1月14日>