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第1616号 ほろほろ通信『いいのよ、もう一つの手があるから』志賀内泰弘

一宮市の藤原梅野さん(81)は長年、
リウマチ性多発筋痛症という病気に悩まされてきた。
四六時中、体のあちこちが痛く、症状が著しい時には心も不安定になる。
そんな中、七十歳の時に引っ越しをした。誰も知る人はいない。
家の中に引きこもりがちになり孤立無援の状態に陥ってしまった。

ある日のこと。隣家に住む夫婦の奥さんが訪ねてきた。
「見てくれは悪いけど私が作った野菜」と言い、ホウレンソウを差し出した。
家庭菜園で育てたもので、農薬を使っていないため虫が食っているとのこと。
おそらく、よほど悲しそうな顔をしているのを見かねてのことに違いない。
ありがたく受け取ると、季節ごとにさまざまな野菜を持って来てくれるようになった。

それを機に、清掃当番や資源回収、草取りなど地域の決まりごとも教えてもらった。
「少しずつ覚えたらいいわ。もし、清掃などの役割ができないことがあっても
『あの方は来たばかりだから』ってみんなに説明してあげる」と言ってくれ、
私は一人じゃないのだと心強く思えるようになった。

五年ほど前のこと。その彼女が転んで手を骨折した。
今までずっと世話になっており、恩返しに菜園の草取りをしたいと思った。
だが、体が言うことを聞かない。

「いいのよ、もう一つの手があるから大丈夫よ。
私のことを気遣うと、それがストレスになって
病気が悪化するといけないわ」と言う。
これには泣けてきた。

「いつも喫茶店や散歩に誘ってくれます。実は同い年。
二人でおしゃべりをするのが一番の楽しみです。
彼女のおかげで今日まで生きて来られました。
ありがとう」と藤原さんは話す。

<中日新聞掲載 2018年1月7日>