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第1606号 ほろほろ通信『静かに追悼の時間を過ごしたい』志賀内泰弘

名古屋市の高見容子さん(36)は高校一年の時、シバイヌを飼い始めた。
紅子と名付けた。やがて紅子は、他の犬に比べて個性的であることがわかってきた。
家族がなでようとしても、よほど機嫌がよくないとかみつく。
姿が見えないと思って捜すと、窓から電車が通るのを楽しげに眺めている。
かといって、わがまま一方というわけではない。
容子さんが落ち込んでいると、隣にちょこんと座って手をペロペロとなめてくれたという。

容子さんは元来、つらい時に
「私も似た経験をしたことがあるから、その気持ちわかるよ。頑張ろう」
と言われるのが苦手だった。無理に共感されているような気がするのだ。
紅子は犬ではあるが、お互いの気持ちを尊重し合いながら
絆を深めることができる唯一の理解者だった。

容子さんは、
「進んで人に話した方が楽になる人、共感してもらうのがうれしい人もいるでしょう。
人の受け止め方はそれぞれ。私は不器用なのかもしれません」と言う。

その紅子が十八歳で命を閉じた。ショックで仕事が手に付かない。
それでも、職場の人たちに気付かれまいと平静を心掛けた。
こういう時「気持ちわかるよ」という慰めや励ましの言葉をかけられたくないからだ。
ただ、黙って静かに追悼の時間を過ごすことに努めた。

ところが、二人の友人に救われたという。
「一人は玄関先まで花を届けると、すぐに帰って行きました。
もう一人は、何も言わず淡々と悲しみを聞いてくれました。
二人とも、私のことをよく理解してくれていたのです」
と高見さん。おかげで少しずつ悲しみが和らいできたという。

<中日新聞 掲載2017年12月24日>