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第1602号 ほろほろ通信『忘れられないリンゴの思い出』志賀内泰弘

道路工事の会社に勤める名古屋市守山区の石川正人さん(45)には、
忘れられない仕事がある。

十年近く前、下水管の埋設工事の現場監督をした時のことだ。
その図面を見るなり、石川さんは頭を抱えた。
幅が2メートルと極めて狭い道路に、深い穴を掘らなくてはならない。
両側は民家が並んでいる。相当の振動が辺りに響くことが推測された。

石川さんは何度も現場を見て歩いたが、
振動を抑える良いアイデアが浮かばない。
振動が少ない小型の掘削機械や転圧機(路面を締め固める機械)
の手配に奔走する一方、近隣の住民に
「揺れますが、最善の努力をします」
旨を説明して回った。

ところが・・・やはり苦情が相次いだ。
ガラス窓が割れたり、建物が傾いたり、
壁にひびが入ったりと予想以上の迷惑をかけてしまった。
地下水が低下したことで地盤沈下が起きたことが原因の一つだった。

だが、多くの人たちの利便のための公共工事であり、
途中で止めることもできない。
石川さんたちはおわびに回り、
一軒一軒の修繕工事を行った。

そんな中、最も被害を出してしまったお宅の修理は三カ月にも及んだ。
精神的にもつらいはず。怒られて当然だ。
だが、その家のご主人は寡黙な方で、
一言もしゃべらず工事完了時の書類に押印していただけた。

それから半年がたった秋の日のこと。
あのご主人から「今から来られるか」と電話が入った。
「また追加の修理の依頼かな」と恐る恐る飛んでいくと、
玄関先でリンゴ一箱を渡された。

「田舎から毎年送ってくるんだ。
たいへんだったな。ありがとう」

石川さんは涙をこらえるので精いっぱいだったという。

<中日新聞掲載 2017年12月17日>