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第1514号 ほろほろ通信『孫に聞かせた脇腹の傷の話』志賀内泰弘

名古屋市守山区の山岡重蔵さん(79)の脇腹には、7センチほどの傷痕がある。
お孫さんが小学校の時、風呂の中で「どうしたの?」と聞いてきた。
ただ苦笑いして答えをはぐらかした。
だが、その数年後、東日本大震災で多くの人の命が失われたのを機に
「教えておかなければ」と思い直し、その理由を話した。

山岡さんは岐阜県七宗町の生まれ。
中学を卒業すると名古屋の農家兼鉄工所へ働きに出た。
親方はたいへん厳しい人で、早朝から深夜まで過酷な労働を強いられたという。

十七歳の夏、お盆で帰省した際、八月十六日の同窓会に参加したため
一日戻るのが遅れた。すると親方はお土産の菓子箱を踏みつけ、ひどく怒った。
「もうここには居られない」と思ったが、辞めれば父親が心配する。
山岡さんは思いつめ、空気銃で自殺を図った。
しかし死にきれず、自分で近くの病院に駆け込み一命を取り留めた。
その時、院長に言われた。
「命は一つしかない。大事にしないかんぞ」
父親にも叱られた。
「命を軽く考えるな。死んだお母さんが、草葉の陰で泣いてるぞ」

それを機に、一度、死んだ気になって再び仕事を頑張るようになった。
その後さらに「人のために尽くす人生を送ろう」と決意し、
少年補導員、保護司、ボーイスカウトの団長などのボランティアを五十年以上続けた。

「孫が夏休みの宿題で、脇腹の傷の話を、
『命について』という題で作文に書いてくれました。
そこには『他人の命も自分の命も大切にすることを誓う』とあり、
うれしかったです」と山岡さん。

今も傷痕を指で触れながら
「生きていて本当によかった」と思うという。

<中日新聞掲載 2017年6月18日>

◆志賀内の新刊「5分で涙があふれて止まらないお話 七転び八起きの人びと」(PHP研究所)

編集長 志賀内泰弘について