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小冊子_表紙「ギブギブ」

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第1468号 ほろほろ通信『ねえ、桜見にいかない?』志賀内泰弘

春日井市の岩田ゆう子さん(70)は、長くご主人の病気の看病・介護をしていた。
がんで十回もの入退院を繰り返した。六回の手術に四種類の抗がん剤治療。
もちろん本人が一番苦しいに違いないが、ゆう子さんも心身ともに疲弊した。

娘さんと二人して交替で週に三回通った。
遠方の病院まで電車とタクシーを乗り継いで行くだけでふらふら。
ご主人は帯状疱疹の痛みでも苦しんだ。鎮静剤もほとんど効かない。
うつになり、ゆう子さんにひどく当たる。
ストレスが募り、ゆう子さんも倒れて入院してしまった。
自身の体重も十キロ近く減り、
「このままだと、どっちが先に死ぬかわからないな」
と思うまでになったという。

そんなある日のこと。町内の仲良しの友達から声を掛けられた。
「ねえ、桜見に行かない?」
ゆう子さんは、すっかり季節が春になっていることさえ忘れていた。
「車の中から見るだけでもきれいだよ」
真っ暗になっていた心の中に、春風が吹いてきた気がした。
「どこでもいいから、連れて行くよ。見たいところを言って!」
車の運転の得意な彼女に任せて、ドライブに出掛けた。
桜の名所で有名な地元の並木道、そして東谷山へ。
満開の桜を見て、生き返った気がした。
その翌月、ご主人は亡くなった。

「あれから七年がたちます。
 その友達に夫の看病をしていると話したことはありますが、
 切羽詰まった状況だとは知らなかったはずです。
 でも、それを察して花見に誘ってくれたのです。
 いまだにお返しもできなくてごめんなさいね。
 ずっと、あの時のことを忘れません。ありがとう」

<中日新聞掲載 2017年3月26日>