たくさんのいい話をたくさんの人に読んでもらいたい・届けたい・広げたい【運営】プチ紳士・プチ淑女を探せ!運動

無料メールマガジン
いい話を読む
いい話を投稿する
みなさんの感想
いい話グッズ購入

いい話を読む

第1452号 ほろほろ通信『ドッコイショ』志賀内泰弘

昨年、名古屋市瑞穂区の岡本哲明さん(66)は大病を患い手術をした。
数日後、主治医の許可が出て、喜んで一階のコンビニへ出掛けた。
とはいっても激痛をこらえ、コロコロと転がる点滴棒を支えにしてゆっくりと歩く。

健康な時なら、なんとも思わない距離が、まるで旅のように長く感じられた。
コンビニが廊下の二十メートルほど先に見えた。
「もうすぐだ!」とほっとした。
いったん立ち止まり、首から下げたポシェットから小銭入れを取り出したその時だった。
不覚にも小銭入れを落としてしまった。
点滴棒には体からいくつもチューブがつながっていて、拾おうにもしゃがめない。
助けを呼ぼうにも、診察時間が終わり院内に人影がない。

立ち尽くして途方に暮れていると、そこへつえをついたおばあさんが通り掛かった、
ひどく腰が曲がっていて、歩くのも難儀な様子。誰かのお見舞いに来たのだろうか。
「さすがに、この人に頼むわけにはいかないなあ」と思った。
ところが、おばあさんは岡島さんの窮状を察して近寄り、小銭入れを拾おうとした。
でもおばあさんもしゃがめない。
申し訳なくて「いいですよ、結構です」と言ったが、何とか出を伸ばして拾おうとする。
ついにはつえを床に倒したかと思うと、ぺたんと座り込んで小銭入れを拾ってくれた。
岡島さんに小銭入れを差し出すと、つえで体を支えて「ドッコイショ」と立ち上がった。

「おばあちゃん、ごめんなさい、ありがとう。
名前を尋ねましたが、黙って去って行かれました。
追いかけることもできず・・・。
病気のおかげで人のぬくもりに触れることができました」
と岡島さんは話す

<中日新聞掲載 2017年2月19日>