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第937号 ちょっといい話『みやざき中央新聞の伝説「女神の営業術」』志賀内泰弘

何度も、当メルマガで紹介させていただいたことのある みやざき中央新聞社長の松田くるみさんが本を出されました。

タイトルは、 「なぜ、宮崎の小さな新聞が世界中で読まれているのか」(ごま書房新社) です。

ベストセラーになった「日本一心を揺るがす新聞の社説」(編集長・水谷もりひと著)で 涙を流した方も多いでしょう。今回の本は、違う切り口で、大感動させてくれます。

それは、くるみさんの、ドン・キホーテのような無手勝流の恐れ知らずのセールスです。 まさしく「女神の営業術」。本文から、何か所か抜粋して紹介させていただきます。

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「毎日3件の見本紙」を取る。それが初期の飛込み営業の目標だった。 「毎日」には週末も入る。 勤め人なら「休みがあると嬉しい」と素直に喜べるだろうが、 赤字を抱えていると落ち着かない。 動かないと状況が好転することがないからだ。

子どもたちはまだ保育園児だった。 週末はゆっくり子どもと遊びたかったが、時間を決めて私は家の近所をまわった。 「一区画でもまわらないと落ち着かない」と、 水谷に子どもたちを見てもらい、私は営業に出た。

正直なところ、休日は仕事のモードにならない。気持ちも乗らない。 それでも行動した。行動すると、終わった時は気持ちが軽くなった。

年末年始は年が明けてすぐ営業を開始した。 宮崎一の目抜き通りのデパート周辺をまわると、 まだ開店していない店も多く、澄んだ空気があたりを覆っていた。

この時も仕事の優先順位の一番は営業だった。 営業の本を読んで以来、私は午前中の気持ちのよい時間を営業に充てるようにしていたが、 時間が早いのでまだ開店していないお店もある。それでもいい。

寒くても暑くても、晴れていても雨が降っていても、動いていれば気分が晴れた。 1日3件の見本紙申し込みが取れれば、さらにその日は気持ちが良かった。

しかし翌日には、またゼロから出発をしなければならない。 いつ終わるともしれない気持ちになって落ち込みそうになる日もあった。 でも、考えるより動く。動けば気持ちも奮い立つ。

やらないでいると、不安だけが大きくなっていくので動くことでリズムを作っていった。 歓楽街をまわっていた時のことだ。一軒も飛ばさないでまわることに決めていた私は、 そこでも順番にお店をまわっていた。どんな業種であっても飛ばすことはなかった。 たとえ、それが風俗店であっても。

ある時、ソープランドに入って、出てきた店員にいつものように見本紙を渡そうとした。 すると、中から「さっき来たぞ~」と声がした。そこで気がついた。 私は一度まわったソープランドの裏玄関から入っていたのだ。

それから、こんなこともあった。ある夕方、水色にペンキ塗りされたバラック小屋のような店に入った。 カウンターにいる店主に新聞を手渡し、いつものように説明をした。 すると「この店がどんなところか知ってるのか?」と聞いてきた。 「お酒を飲ませるお店ですよね」と答えると、「ここはオンナを買うところだ」と言う。 店主は有名人の名前を出して、彼らもお客さんだと話を続けた。

そして私が渡した新聞を受け取ったかと思うと、品定めするような目で私を見て、 「こんな新聞より、あんたの方が商品になる」と言った。

私は少し戸惑ったが、しばらく見本紙を読んで欲しいことを伝え、住所を書いてもらった。 一ヵ月後、この店主は読んでくれることになったのだが、半年で購読中止になった。 きっと集金に行っていた私に、仕事替えをする意思が見受けられなかったからだろう。

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いかがですか。私にはとてもマネできません。 くるみさんは、社会教育家の田中真澄先生の講演を聴いて、 こんなふうに決意されたと言います。

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一番心に残っているのは、社会教育家の田中真澄先生の講演だった。 私が田中先生と出会った時、田中先生は還暦を迎えたばかりだった。 私は、あれほど熱く語る講師を過去にも先にも他に知らない。

初めて田中先生の講演を聴いた時、衝撃を受けた。講演の途中で上着を脱がれたのだが、 先生の白いシャツはまるで雨に濡れたように汗でびっしょりだった。 こんな講師と今まで出会ったことがなかった。

田中先生は、日本経済新聞社を途中退職した後、 講演会の講師一筋で生きてきた人だった。

「凡人は、一点集中しかありません。コツコツ、コツコツといくしかないのです」

さらに、足の裏を叩きながらこうおっしゃった。 「足の裏をかなづちで叩いても痛くありません。ところが、針でつつかれると飛び上がるくらい痛いでしょ。 一点に集中しているからです。仕事も同じです。凡人は一点集中で勝負するしかないのです!」

田中先生の話を、私は自分に置き換えてみた。 ちょうど、毎日の営業を続けながら「これでいいのだろうか」と悩んでいた時期だった。 2年、3年と営業を続けてコツもつかんだ。ずっとこのまま飛び込み営業を続けることはできる。

しかし、それでは脳がないのではないか……。 そんな悩みを抱えていた私の心に、田中先生の言葉がストレートに突き刺さってきた。 講演が終わった時、おぼろげながら結論を出していた。

「悩むことはない。今のままでいい。このままいこう」

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その後、くるみさんは、直接、田中先生と知り合う機会を得ます。 そして、先生に手紙を書きました。 「今の私があるのは、12年前に田中先生の講演を聴き、『凡人は一点集中しかありません』 の言葉を頂いたお陰です。コツコツコツコツやってまいりました。途中挫折しなかったのは、 田中先生のご講演のおかげです」

すぐに、田中先生から返事が届きました。

「私は何もしていません。実行し続けたのは松田さんです」 「もしあの時、あのタイミングで先生の講演を聴いていなかったら、近道をしようとして、  かえって遠まわりをしていたかもしれないし、あそこまで根気強く、営業が続けられただろうか疑問に思う」

と言います。 「凡人は一点集中」 この言葉をが強く心に残ります。 今までの人生に反省を込めて。