第206号 『人生の転機』志賀内泰弘
友人にすすめられて一冊の本を求めました。 斉藤理恵著「筆談ホステス」光文社です。
耳が聴こえないので、筆談をしてお客様とやりとりをする。 にもかかわらず、銀座でナンバーワンになったホステスのお話です。
* * *
著者は一歳10ヶ月のとき髄膜炎に罹りました。 菌やウイルスが体内に入って、発熱や頭痛、意識障害を起こす病気です。 それが原因となり、耳が聞こえなくなってしまったのです。
小学校、中学校と聾学校ではなく普通の学校で勉強をしました。 耳が聞こえないことでいじめられたりしました。
なんと先生から、
「君は神に耳を取られた」
とみんなの前で黒板に書かれたこともありました。
そんな彼女は、中学でタバコに飲酒、 カラフルな髪型にミニスカートと学校一の問題児になってしまいました。
そのため、ボヤがあったとき無実なのに犯人扱いにされたこともありました。 高校生になったある日のことでした。
アメリカンカジュアルのお店で、 なんとなく欲しかった洋服をかばんの中に入れてしまいました。
万引きです。
店内を出るとき、タグの盗難用ブザーが鳴り、 オーナーに捕まりました。
警察に通報され、おまわりさんが来るまでの間、 オーナーが彼女に話しかけてきました。
「自分も15歳のころに万引きをしたことがあるから君の気持ちはわかる。 君はきっと悪い子ではないはずだから、ほんの出来心だったのだろう」
それを聴いて過ちに気付き、罪悪感に襲われ、必死に謝罪ました。
しばらくした冬休みのこと。
オーナーが家まで電話をくれました。そして両親に、 彼女がバイトをする意思があるかどうか聞いたそうです。
もちろん、あの万引きをしてしまったお店でです。 大喜びでバイトを始めました。
耳の聞こえない彼女に対して、オーナーは仕事の限界を作るこなく、 なんでもやらせてくれました。
間違ったことをすると厳しく叱り、 それ以外のときは温かく見守ってくれたそうです。
さらに、
「ここで働くならば、きちんと家にお金を入れなさい」
とアドバイスをしてくれ、毎月3万円を両親に渡すようになり、 泣いて喜んでもらえました。
* * *
ふと、思いました。
「筆談ホステス」に登場するオーナーは、 「先生」なんだなと。
学校の先生ではないけれど、 社会という名前の「学校」の先生なんだ。
オーナーとの出逢いが、彼女の「人生の転機」になりました。 理想かもしれないけれど、町中がこんな先生で いっぱいになったらいいなと思いました。









