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| - 第 99 話 - 『ダイヤモンド』 |
『ダイヤモンド』
編集長・志賀内泰弘
群馬県にある片岡中学校の梅澤泰子先生から、
学級通信「青空」が届きました。
そこには、教え子との感動の物語が綴られていました。
メルマガとして発信するために、
要旨を短く書き直し始めて思い留まりました。
文字を削るのが、とてももったいなくて。
ちょっと長めの内容ですが、
お付き合いいただけたら幸いです。
* * * * *
嬉しい再会がありました。
3月に行われた「卒業生を送る会」で
卒業生を代表して話をした奥澤幸大くんです。
奥澤くんは、片岡中学校に入学した頃は身体が弱く、
すぐに高熱を出しては調子を崩してしまうという状態だったそうです。
「卒業生を送る会」の発表では、
「頑張りたいと思っても、体の具合が悪くなり、
思うように学校生活を送れなかった」
という話をしてくれたことを思い出します。
奥澤くんは、幼い頃から料理作りが趣味で、
休日ともなると家で包丁を握り、
家族のために「だしをとる」ことから
始めるという本格的な料理を好んでいました。
中学3年生になってからの将来の夢は
「料理人になること」として、
できるだけ健康に気配りしながら
元気に学校生活を送ることを心がけていたのです。
秋になり、いよいよ進路を決定していく頃のこと。
奥澤くんが
「先生、私は実際に料理しながら、
技術を身につけ、給料を貯めたいと思います。
そして、自分で貯めたお金で調理の専門学校に通い、
資格を取ろうと考えています。
ですから、中学校を卒業したら、料理屋さんで働きたいです」
と話をしてくれました。
家庭のことも考えた上での決断で、お母さんからも、
「本人がそのつもりであれば、
その方がいいから応援します。
どちらかお店を紹介していただけますか?」
と相談がありました。
学年の先生方の協力も大きくて、
就職担当だった吉田先生は、
たびたび奥澤くんの件で「ハローワーク」に
連絡をしてくださいました。
ところが、中学卒業者ということで、
なかなか就職先が見つからないというのが現状でした。
来る日も、来る日も3年生担当の先生方は
卒業後の進路がなかなか決定しないことに心配し、
知り合いの料理店で中学卒業者を雇ってくれるところはないか
と探したりしたのです。
そんな折に、吉田先生が
「以前、○○寿司さんは中学卒業者を採用してくれたらしい」
という話を耳にしたということで、
○○寿司さんに連絡をとってくださいました。
ありがたいことに「面接をしてみましょう。」ということになり、
数回にわたり面接を受けました。
自分自身の描く将来の夢、今後の生活設計などはもちろんのこと、
多岐にわたる質問に対して、
大変真摯な気落ちで受け答えをしたのだそうです。
奥澤くんの努力が実り、「内定」をいう連絡が入りました。
「内定」を受けて、奥沢くんは気持ちを一層引き締め、
毎朝、7時半過ぎには登校し、
クラスの窓という窓全てをきれいに拭き清めてくれたのでした。
他にも
「何か手伝えることはありませんか?」
と気配りをし、給食の片付けの時にも率先して
前に出てきては食器の整頓を手伝ったのです。
卒業してから2ヶ月が過ぎ、
ようやく私が奥澤くんの職場を訪れる日がやってきました。
私が奥澤くんのことを心配していることを知り、
親しい先生たちが気を遣ってくださって、
一緒に食事に出かけることになりました。
家を離れて、お店の寮で生活をしていることもあり、
「どうかな、頑張っているかな」と、
旧担任としては心配ばかりが広がっていました。
しかし不安をよそに、奥澤くんはYシャツにネクタイ、
お寿司屋さんにぴったりな上っ張りとズボン姿で
私の前に現れました。
「いらっしゃいませ〜」
その声に日々の頑張りが感じられて、
胸が熱くなりました。
注文をとる時の姿勢も対応の言葉もなかなか堂に入り、
もうすっかり社会人として活躍しているのだなあとも思いました。
仕事中でしたから、個人的な話をするわけにもいきませんでしたが、
お料理を運んでくれる折々に、ちょこちょこっと話してくれる言葉に
大変重みがありました。
「後ろを失礼します〜」
「失礼いたしました〜」
そんな短い言葉の中にも、自信がみなぎっていました。
そんな時に、突然、奥澤くんが私の近くに寄り、
「先生、加瀬先生に持っていって
欲しい物があるのですが、お願いできますか?」
と言うのでした。
加瀬先生は、昨年私のクラスの副担任をしてくださって、
奥澤くんも私が出張で不在の時にはお世話になった先生です。
しばらくすると奥澤くんが包みをふたつ持って、
私のところにやってきました。
「先生、これを加瀬先生に届けて欲しいのです。
これは、『焼きもの』で調理場の方が準備してくれたのですけど、
こっちは俺が注文したもので、
どうしても加瀬先生に食べてもらいたと思って・・・」
自分のお給料から支払うという形で奥澤くんが注文し、
板前さんに特別に作っていただいたものだったのです。
「それほどまでに加瀬先生に届けたいものって何だろう?」
と思いながら、奥澤くんの話に耳を傾けました。すると・・・
「この中には『巻きもの』が3種類入っています。
『納豆巻き』と『かんぴょう巻き』と『弥助巻き』です。
『納豆巻き』は加瀬先生は今年、
初めて担任をされていると聞いたので、
『粘り強く仕事ができるように』です。
『かんぴょう巻き』は
『生徒のことを気を長くして見守れるように』です。
そして『弥助巻き』は中に色々な具が入っているのですけれど、
生徒も同じで個性がいろいろとあると思います。
それを上手にまとめられるように」ということで入れました。
3種類の巻きものはみんなそういう意味があるということを
必ず加瀬先生に伝えてください」
私は感動して涙が出てくるほどでした。
片岡中学校を卒業して2ヶ月にして、
こんなに成長した姿に出会えるとは・・・。
奥澤くん自身の頑張りはもちろんのこと、
中学校を卒業したばかりの奥澤くんを
迎えた○○寿司の職場の皆さんの気遣いや
あたたかな御指導に頭が下がる思いでした。
一緒に出かけた先生方も成長した姿に感動され、
何度も何度も立派になったねと話しました。
奥澤くんからのお届け物を加瀬先生は
どんな気持ちで受け止めてくださったと思いますか。
『巻きもの』の説明を聞きながら、
加瀬先生の気持ちが変化する様子を私はしっかりと感じました。
瞳の奧にキラッと輝くものがありました。
15歳の奥澤くんにこんな風に力強く励ましてもらえる加瀬先生・・・
きっと奥澤くんの気持ち通りに
「粘り強く」「気を長くして」「個性ある生徒をまとめ、
上手に伸ばす」先生になってくれることでしょう。
私は教職についてから、たくさんの人との出会いがありました。
出会う人たちから数え切れないほどのダイヤモンドをいただいています。
ダイヤモンドの形や大きさは色々ですが、
どのダイヤモンドも他では得ることの出来ない、
オンリーワンのダイヤモンドです。
今年、めぐり会った2年2組の34人もきっと奥澤くんのように、
一歩一歩成長し、大きく育っていくことでしょう。
私は、みんなの成長のために、
「小さくて硬い踏み台」になれればいいなと
考えるこの頃です。
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