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- 第 97 話 -  『一隅を照らす』 
 『一隅を照らす』

                    平林潤


今年の4月、小学生になった男の子T君がいます。

T君は県の養護学校に通っています。
ここの養護学校では、自分で登下校ができない生徒の為に
スクールバスがあります。

毎朝、自宅近くの道路まで親が付き添い、
バスに乗せます。

バス通学が始まってしばらくしてのこと。
お母さんがお父さんに、

 「最近、Tもやっとバス通学に慣れて、
  登校もスムーズになって来たわ。

  そうそう、
  最近嬉しいことがあってね、
  通勤途中の年輩の男性が、
  バスを待っているTに声を掛けてくれるの。


  『おはよう? 今日も元気に頑張ってね!』


  それも必ず立ち止まって、腰を屈めて。
  なのにTは相変わらず愛想なく、
  そっぽを向いてるの…」

(T君は対人とのコミュニケーションを
 上手く取れない障害を持っています)

お父さんは、

 「ありがたいね! 温かい声に感謝しなければ!
  Tの失礼を謝っておいてね」

それから半年が過ぎようとしたある日、
いつものように男性が声を掛けたら、
T君が小さな声で

 「おはようございます」

と返事をしたそうです。
男性もお母さんもびっくり!

 「おー! 立派な挨拶ができたね〜」

と、一緒に喜んでくれました。

男性が毎日発信していた心の声が、
T君とお母さんに光を差した瞬間でした!

お父さんが立ち会う機会があった際、
男性に、

 「いつも温かい声を掛けてくださり、
  本当に有難うございます」

と伝えると、

 「お礼をいうのはこちらの方ですよ!
  T君の笑顔とあいさつに元気をもらっているのは
  こちらの方ですから。ありがとうございます!」

先日は、

 「T君がいないので、何か朝から調子が出なくて」

と言われたそうです。
お父さんは、

 「とんでもございません!
  息子は勿論のこと、私たち夫婦も本当に感謝しております!」

といい、泣いてしまったそうです。

T君は最近では、顔もそむけることなく、
挨拶も少しづつ出来るようになり、
犬の散歩中のおばさん、ランニングおじさんにも声を掛けられ、
ちょっとしたマスコットボーイだそうです。


さて、出張で伊香保温泉の近くにある水沢観音に行った時のこと。
本堂に「一隅を照らす」の文字が掲げられていました。

「一隅を照らす」とは、「縁の下の力の方を照らす」という意味と
受け取っていたのですが、よく聞いてみると、

 ---------------------------------------------------
  貴方のおかれている場所や立場で出来うるベストを
  尽くしてください。貴方が光ると隣の人も光ります。
  そうすると人も町も社会も光ります。
 ---------------------------------------------------

毎朝、声を掛けられたこの男性は、
まさに「一隅を照らす」です。

男性の日々の温かい声掛けが、
T君とお母さんに光を与えたと思いました。


※文字量の関係上、文意を損なわない程度に
 編集してあります。(文責:小島)

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