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- 第 77 話 -  『小さな勇気』 

『小さな勇気』

     〜 少しくらい、おせっかいな方がいい 〜



                  編集長・志賀内泰弘




昨年の秋のことです。電車に乗ると、お年寄りに席を譲るように心掛けています。
でも、「こちらに座られますか」と「ひと声かける」タイミングと勇気は、
なかなか難しいものです。

本人は、年寄り扱いされたくないと思っているかもしれません。
そういう場合には、憮然とされる場合もあります。
反対に、若くは見えても、膝の痛みなどで立っているのが
辛いという人もいます。

ある朝のことです。
いつものように、最寄の駅から勤め先の入っているビルまで歩いていました。
ふと見ると、路上にホームレスのおじさんが横たわっています。
通行の邪魔になり、みんなが避けて通っていました。
私も、酔っ払っているのかな、とチラッと横目で睨みながら
眉をひそめて行き過ぎました。

会社に着いて、しばらくすると、
ビルの下で救急車のサイレンの音がしました。
なんだろう、と窓越しに下を覗くと、
先程のホームレスのおじさんが担架で担がれているのが見えました。

冷や汗が出ました。
酔っ払っていたのではなく、具合が悪かったのです。
そのことに誰かが気づいて119番に通報したのでしょう。
本当に、恥ずかしくなりました。


さて、話は変わります。
ある時、病院までタクシーに乗った時のことです。
行き先を告げるなり、運転手さんに聞かれました。

 「大丈夫ですか。だいぶん悪いの?」

と。一瞬戸惑いましたが、すぐに合点がいきました。
体調が悪くて病院の診察を受けに行くと思い気遣ってくれたのだと。
そういえば、この日は少々疲れ気味でした。

 「いえいえ、お見舞いに行くのです。
  そんなにやつれた顔をしてますか」

と答えると、

 「そうですか、よかった」

と微笑んでくれました。続けて、
「実は……」と、運転手さんはこんな話をしてくれました。


ある日、空車で走っている時に、
歩道に一人の若い女性がうずくまっているのが見えたそうです。
たまたま靴の紐でも結んでいるのか、それとも…。

しばらく走ってからも気になって仕方が無く、
来た道を引きかえしたところ、
そこには、まだ女性がしゃがんだままでいました。
車を降りて声をかけると、
相当具合が悪い様子が見て取れました。

 「大丈夫ですか」

と声をかけると、病院まで連れて行って欲しいと言います。
持病のため通院で、いつもなら自宅の近くからタクシーに乗るのだが、
その日は気分が良かったので少し運動のつもりで歩き始めたとのこと。

ところが、途中でどうにも気分が悪くなり、
とうとう一歩も歩けなくなってしまった。

本当に危ないところを助けてもらって、と感謝されたというのです。 

タクシーが急遽、救急車に早代わりし、病院に搬送しました。
もし、この運転手さんが知らん顔で通り過ぎていたら…。
そう思うとぞっとします。

「ひと声かける」タイミングと勇気は、
少しおせっかいなくらいがちょうどいいかな、と思いました。

それにしても、この運転手さんの勇気には脱帽です。
そう、目に見えないものに価値がある。


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