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- 第 53 話 -  『王監督、退院おめでとうございます。』

「王さんと女将さんの話」

        編集長・志賀内泰弘


名古屋の中区・伏見に「みその亭」という居酒屋さんがあります。
ここの女将さんと懇意にさせていただいています。
今日は、その女将さんから伺ったお話です。

「みその亭」は以前、旅館をしていたことがあります。
昭和四十年代、ちょうど、川上監督のもとで巨人軍がV9を果たした頃、
名古屋への遠征のときには、「みその亭」が宿舎になっていました。

現在は、一階は、居酒屋の造りになっていますが、
二階は、当時の面影がそのまま残っています。
宿の客室を宴会の小部屋に使っているのです。
もちろん、外装もそのまま。
ビルの立ち並ぶ中に、ポツンと日本家屋の佇まいをみせています。

座敷に通されて、ふと思い出しました。
あの不朽の名作マンガ「巨人の星」の一場面です。

遠征先の宿舎でのこと。
巨人軍のある選手が真夜中になにやら音がして眠れないので、
隣の部屋をそっとのぞきに行くと、
王選手がひたすらバットの素振りをしていたというエピソードです。

ひょっとすると…。
女将さんに聞くと、

 「それが名古屋でのことかどうかわかりませんが、
  王さんがいつも泊まっていた部屋は残っているんですよ」

と、通りに面した2階の部屋に案内してくれました。

なんだか感激です。
その他にも川上哲治監督が使っていた部屋も残っています。
お店では監督部屋と呼んでいるそうです。

当時は、女将さんのお父さんが旅館の主人をしていました。
女将さんは、お父さんから当時の話を聞いて育ちました。
女将さんは、

 「ぜひ、もう一度、王さんに来てもらいたいなぁ」

と思い、巨人軍のOBである淡口さんに紹介してもらい、
王さんに会いに行きました。

昨年から始まった、セ・パ交流戦のため、
ドラゴンズ戦のためにソフトバンクが名古屋にやってきます。
その時、ドラゴンズに勝ってもらうためにと、
「どらやき」を手土産にして。


短い時間でしたが、王監督にもお目にかかることができ、
「ぜひ、お店にお越しください」
と告げて帰ってきました。

さて、いよいよ名古屋ドームで
ドラゴンズ対ソフトバンクの対戦の日。
残念ながら、ソフトバンクは負けてしまいました。
「どらやき」の効果もありませんでした。
がっかりです。

ところが、店の火を落として、表に出ると
そこに、王さんが立っていたというのです。

きっと、店は終っているみたいだし
入り辛かったのでしょうね。

あの大柄な王さんが、「どうしようかなぁ」と
店の前でうろうろしている様子を
想像すると愉快になります。

女将さんもびっくり。

当時のままの部屋を見ていただくと
だんだんと記憶が蘇ってきたそうです。

たしかに、この部屋で
荒川コーチの指導のもと、
バットを振っていたと。

さて、その数日後のことです。
皆さんもご存じの通り、
「胃の手術のため緊急入院」
のニュースが報じられました。

女将さんは、またまたびっくりです。
だって、つい先日、あんなに元気に訪ねてきて下さったのに。

推測するに、
訪ねて下さった日には、入院の日程がわかっていたのではないか。
身体の調子も良くなかったに違いない。
それなのに、王さんは訪ねて来て下さった。
王さんらしいというか。
なんとも義理堅い、真面目な方です。
だから、胃をやられてしまうのかなぁ、とも。

女将さんは、その日から千羽鶴を折り始めました。
お店の常連客の皆さんも、みんなで折ってくれました。

千羽の目標が、二千羽に。
それを持って、女将さんは東京の慶応病院を訪ねました。
マネージャーさんが「たしかに」と受け取ってくれました。

そして、手術の成功のニュース。
実は、全国のあちこちでも、王さんのファンが千羽鶴を折って
届けたというのです。
これを「人柄」というのでしょう。

きっと全国の野球ファンは、
チームの壁を越えて王貞治ファンに違いありません。

アンチ・ジャイアンツでも、
また、野球を知らない人でも、
「王さんが好き」という人がいっぱいいます。
私も、ドラゴンズファンですが、昔から王さんのファンです。


1日も早い回復、
そして監督としての采配が心より待たれます。
「王さん、おだいじに」

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